プロローグ
文字数 579文字
24年前のあの日、ぼくは死んだ。
煌々と燃えさかる炎に家は焼け落ち、崩れ去っていく。炎の怪物はその大きな手で、ぼくの街を包み込んでいった。ぼくにはその光景がまるで、怪物が大口を開けて笑い、街の上を踊っているかに見えた。楽しくて仕方がない、といったように。
物の焦げたにおいに混じって、肉が焼けたような、吐き気を催すにおいが漂ってくる。燃えた男は悲鳴を上げ逃げる女性を捕まえて、ナイフで刺した。狂ったように笑いながら、何度も刃を突き立てる。女性が声を失ったのは、四度目にナイフが振り下ろされてからだった。燃えた男は不意に刺すのをやめたかと思うと、自身の胸を勢いよく突き刺し、笑いながら崩れ落ちていった。
足下を見ると、瓦礫の下敷きになっていた女性は微笑みをうかべていた。彼女は今夜、こんなことになるとは夢にも思わなかっただろう。いつものように明日を迎え、いつものように幸せな生活を送っていたはずだ。この街に住むすべての人は、これからも代わり映えのない日々を送るはずだった。
狂っていた。
なにもかもが狂っていた。
「きみ、危ない!」
倒壊した建物が降ってくる。
全てを焼き尽くす業火と人々の恐怖に支配された世界で、ぼくはただ、見ていることしかできなかった。
こうして約束された平和は上へと昇っていく黒煙とともに消え失せたのだった。
煌々と燃えさかる炎に家は焼け落ち、崩れ去っていく。炎の怪物はその大きな手で、ぼくの街を包み込んでいった。ぼくにはその光景がまるで、怪物が大口を開けて笑い、街の上を踊っているかに見えた。楽しくて仕方がない、といったように。
物の焦げたにおいに混じって、肉が焼けたような、吐き気を催すにおいが漂ってくる。燃えた男は悲鳴を上げ逃げる女性を捕まえて、ナイフで刺した。狂ったように笑いながら、何度も刃を突き立てる。女性が声を失ったのは、四度目にナイフが振り下ろされてからだった。燃えた男は不意に刺すのをやめたかと思うと、自身の胸を勢いよく突き刺し、笑いながら崩れ落ちていった。
足下を見ると、瓦礫の下敷きになっていた女性は微笑みをうかべていた。彼女は今夜、こんなことになるとは夢にも思わなかっただろう。いつものように明日を迎え、いつものように幸せな生活を送っていたはずだ。この街に住むすべての人は、これからも代わり映えのない日々を送るはずだった。
狂っていた。
なにもかもが狂っていた。
「きみ、危ない!」
倒壊した建物が降ってくる。
全てを焼き尽くす業火と人々の恐怖に支配された世界で、ぼくはただ、見ていることしかできなかった。
こうして約束された平和は上へと昇っていく黒煙とともに消え失せたのだった。