第4話「どうき」
文字数 1,655文字
「うん…。緊張してるな私…!」
今私は、立派なビルの前にいる。
普段使わない電車に揺られ、足りなかったお金をICカードにチャージしここまで来たのだ。
私の所属することになった…いや、所属している「いであたいむ」の入っているビル…!
目的は、初配信に向けての事前打ち合わせ&顔合わせ。
入り口で入構証を渡され「ゲストさん」としてエレベーターに乗り、三階の会議室へ。
「目立つ色のジャケットだね。可愛い。」
乗り合わせた美人なお姉さんが、私のお気に入りの赤ジャケに感想をくれた。
「えっと…!チョコレートみたいで素敵だなって…!一目惚れで!」
基本色が赤で、裾の部分が少しだけ黒。
三角錐でイチゴ味の例のチョコを連想させる色味に惚れて買ったのだ。
古着で。
内部に入れば入るほど、緊張でドンドン硬度がましていく私には、この何気ない会話が「ほぐし水」だった。
「社員さんですか?」
口を開くと空気が抜けて、体の強張りが少しずつ溶けていく。
担当さんと話す前にもう少しほぐしたい。
その気持が会話を続けたいと、私の口を走らせた。
「一緒ですよ。」
お姉さんが、少し茶色掛かったふわふわセミロングの髪を揺らして、首から下げた「ゲストさん」名義の入構証を見せてくれた。
「なんと…!」
私と同じ、よそ者でありながらこの落ち着きよう…。
しかも、私が同じくゲストであることを彼女は既に認識していた。
冷静に周りを見る余裕があり、ガチガチな私に声をかけてくれたのだろう。
優しい微笑みに、それがにじみ溢れている。
こやつ…やりおるな!
「…もしかして、新しい配信者の方だったりします?」
「な、なぜ、わかるんですか。」
霊能力かなんか、お持ちの方であろうか?
このエレベータに乗り込んでからのたった一時、短い時間でなぜそこまで??
その時、私の胸に苦い思い出が広がった。
「お金に困っている学生の君たちへ!このアンケートに答えるだけで金一封!」と、回ってきたエサにまんまと釣られて、個人情報だけとられた、あの夏。
「再配達はこちらから!」と、通販なんて頼んで無いけど、絶妙に不在のタイミングで連絡が来て、まんまと個人情報を入力した、あの冬。
私はこの苦味を知っている。
身投げ作戦一筋の我が人生、幾度となくヤラれた負の経験で…!
「もしかしてもしかして…ワンコちゃん?」
「まだ限られた役人(運営と私)しか、知らぬはずの貴重な情報をなぜ…!?はっ!?やっぱりあなた詐欺師ですね!!!」
あまりにも見透かされた発言に、怯えて震える私。
なるものか…!もう二度と両親にこっ酷く叱られたくはないのだ。
「活発で、盛んで、元気一杯!かまって欲しがりの犬人間。ぴったりです!」
「ワン・ワンコの初期プロフィールを読み上げたって信じませんよ!!」
お姉さんが口にしたのは、採用が決まってからちゃんと読み直したワンコの初期設定。
他にも身長と誕生日とかが書かれている。
後々いろんな設定を後付するそうで、好きな食べ物や趣味などは中身(私)に寄せていいと担当マネージャーさんに電話で言われた。
「同期ですよ!野山リリ。大学生キャラの!」
見覚えのある名前を名乗ったお姉さんが、私に喜び抱きつく。
「第十二回・所属配信者採用応募」の3人…いや2人と1匹内の1枠…!
確か「物腰やわらかな、人妻味のある女子大学生」とう初期設定の大学生。
自分のなる、犬の設定しか読み直さなかったから、不確かだけど、たぶんきっとそんなんだった。
「あ…あなたがヒヨコちゃん!?ごめんなさい!!!食べるつもりなんてなかったんだよ!!!」
「???」
さすがの観察力を持つおねーさんでも、私の言葉の意味は理解できなかったろう。
そりゃ~ね!
私の夢の出来事への謝罪だから。
だって、お姉さん目線だと、まさかの同期と出会えた「喜び」なんだろうけどさ!
私からすると、優しく声を掛けてくれたお姉さんが、妙に察しのいい謎のおねーさんに変わり、衝撃の事実が判明するまでが短ぎて!混乱もするさ!
今私は、立派なビルの前にいる。
普段使わない電車に揺られ、足りなかったお金をICカードにチャージしここまで来たのだ。
私の所属することになった…いや、所属している「いであたいむ」の入っているビル…!
目的は、初配信に向けての事前打ち合わせ&顔合わせ。
入り口で入構証を渡され「ゲストさん」としてエレベーターに乗り、三階の会議室へ。
「目立つ色のジャケットだね。可愛い。」
乗り合わせた美人なお姉さんが、私のお気に入りの赤ジャケに感想をくれた。
「えっと…!チョコレートみたいで素敵だなって…!一目惚れで!」
基本色が赤で、裾の部分が少しだけ黒。
三角錐でイチゴ味の例のチョコを連想させる色味に惚れて買ったのだ。
古着で。
内部に入れば入るほど、緊張でドンドン硬度がましていく私には、この何気ない会話が「ほぐし水」だった。
「社員さんですか?」
口を開くと空気が抜けて、体の強張りが少しずつ溶けていく。
担当さんと話す前にもう少しほぐしたい。
その気持が会話を続けたいと、私の口を走らせた。
「一緒ですよ。」
お姉さんが、少し茶色掛かったふわふわセミロングの髪を揺らして、首から下げた「ゲストさん」名義の入構証を見せてくれた。
「なんと…!」
私と同じ、よそ者でありながらこの落ち着きよう…。
しかも、私が同じくゲストであることを彼女は既に認識していた。
冷静に周りを見る余裕があり、ガチガチな私に声をかけてくれたのだろう。
優しい微笑みに、それがにじみ溢れている。
こやつ…やりおるな!
「…もしかして、新しい配信者の方だったりします?」
「な、なぜ、わかるんですか。」
霊能力かなんか、お持ちの方であろうか?
このエレベータに乗り込んでからのたった一時、短い時間でなぜそこまで??
その時、私の胸に苦い思い出が広がった。
「お金に困っている学生の君たちへ!このアンケートに答えるだけで金一封!」と、回ってきたエサにまんまと釣られて、個人情報だけとられた、あの夏。
「再配達はこちらから!」と、通販なんて頼んで無いけど、絶妙に不在のタイミングで連絡が来て、まんまと個人情報を入力した、あの冬。
私はこの苦味を知っている。
身投げ作戦一筋の我が人生、幾度となくヤラれた負の経験で…!
「もしかしてもしかして…ワンコちゃん?」
「まだ限られた役人(運営と私)しか、知らぬはずの貴重な情報をなぜ…!?はっ!?やっぱりあなた詐欺師ですね!!!」
あまりにも見透かされた発言に、怯えて震える私。
なるものか…!もう二度と両親にこっ酷く叱られたくはないのだ。
「活発で、盛んで、元気一杯!かまって欲しがりの犬人間。ぴったりです!」
「ワン・ワンコの初期プロフィールを読み上げたって信じませんよ!!」
お姉さんが口にしたのは、採用が決まってからちゃんと読み直したワンコの初期設定。
他にも身長と誕生日とかが書かれている。
後々いろんな設定を後付するそうで、好きな食べ物や趣味などは中身(私)に寄せていいと担当マネージャーさんに電話で言われた。
「同期ですよ!野山リリ。大学生キャラの!」
見覚えのある名前を名乗ったお姉さんが、私に喜び抱きつく。
「第十二回・所属配信者採用応募」の3人…いや2人と1匹内の1枠…!
確か「物腰やわらかな、人妻味のある女子大学生」とう初期設定の大学生。
自分のなる、犬の設定しか読み直さなかったから、不確かだけど、たぶんきっとそんなんだった。
「あ…あなたがヒヨコちゃん!?ごめんなさい!!!食べるつもりなんてなかったんだよ!!!」
「???」
さすがの観察力を持つおねーさんでも、私の言葉の意味は理解できなかったろう。
そりゃ~ね!
私の夢の出来事への謝罪だから。
だって、お姉さん目線だと、まさかの同期と出会えた「喜び」なんだろうけどさ!
私からすると、優しく声を掛けてくれたお姉さんが、妙に察しのいい謎のおねーさんに変わり、衝撃の事実が判明するまでが短ぎて!混乱もするさ!