第3話「元気!」

文字数 1,334文字

 バーチャル配信者を始める前に、一度事務所で打ち合わせをすることになった。

「深山さんさえよろしければ、一度お会いしましょうか。」
 そう言った私の担当マネージャさんの一声に。

「是非!喜んで!」 
 と、いつも通りに言葉を理解する前に返事をし
「私、関東住みですし!全然!全然行きます!」
 と、後付で理由も添えておいた。
 
 最終関門の電話面接を終えて一週間後。都内某所の事務所に足を運ぶことになった。

 いつもながら思う。ちょっとは考えたほうがいいのだろうな…っと。
 なぜなら、自業自得がすでにひとつ。
 
 私がかぶる皮。
 バーチャル配信者としての外見についてである。

 人型の犬である。

 何もかも私が悪いのだけど、どうやら私の応募したのは「第十二回・所属配信者採用応募」で、採用枠は3人。
 用意された外見は「活発そうな女子大生」と「ヒゲのおじさん」そして「人型の犬」。
 
 身投げメールに必要事項を書いた際、私が大学生なことも、女なことも、当然書く。
 だから、当然「活発そうな女子大生」になるものだ…と私は思い込んでいた。

 しかし、私が権利を得たのは犬。
 しかも、その事実を知ったのは、最終の電話面接の時だった。
 
「珍しいよね、第一希望に犬選ぶ子。いりかさんは犬派だったりする?」
「…?」

 何を言われているのか、はじめは理解できなかった。
 この場合、犬の対義語ってたぶん猫だよな?おかしな話だ…とか考えたり。 

 しかし当然、担当さんが聞きたかったのは、私が犬派か猫派かなどではない。
 後で確認したけど、応募ページにはちゃんと希望キャラクターの所があったのだ。

 ただただ、私が完全に見落としていて、犬の所の白丸にチェックを入れて身投げした…というだけだ。
 そして希望通りに「犬」として生まれ変わらせて頂ける…と。

 「考える時間を取ると、応募するのやめたくなる!」だからといって、適当にポチポチしてはイケないという教訓である。
 何度、繰り返しても学べていないんですけれどもね!

「ワン・ワンコで応募で間違いないですよね?」
 さすが、採用担当さん。
 私の一瞬の間を見逃さず「こいつ…もしかしてヤラかしたか?」と確認をくださった。
 当然、私だってすかさず返事をする。

「はい!もちろん!名前の響きが可愛いですよね!中華料理っぽくて!」
 負けるわけにはいかない。ここ何十年も「いい加減担当」をやってきたんだ。
 犬がどんな見た目していたか、その時は覚えてもなかったので、語感からワンタン麺を思い浮かべ、元気よく返事をした。

 元気がアレばどうにかなるのである。

 そうして無事、私は「ワン・ワンコ」としてバーチャル配信者になることが決まった。
 まぁ、いいじゃない!後に確認したら美人な犬だったし!ヒゲのおじさんの中身やるよりはさ!
 
 当初の目的の人生への刺激、変化って意味じゃ、一番ぴったりだよ!運命だね!
 大学生だと倍率高くって落ちてただろうしさ!

 その日の夜、犬人間になってヒヨコを食べる夢を見た。
 ヒヨコちゃんは小さくて、丸くて、ピヨピヨしてて凄く可愛いくて…。
 夢によくあることだけど、不自然ながら何故か納得してる設定があって、そのヒヨコは大学生なのだ。

 なぜか起きたら、枕が涙で濡れていた。 

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