文字数 1,158文字

我にかえると目前に夫が倒れていた。
口の中に血の味がひろがっている。甘美ニャ味だ。
たしかキッチンで食事の用意をしていた。
今日もネコ缶は入手できニャかった。
夫のニャがい耳があっちを向いたりこっちを向いたりしているのを見ているうち、頭がぼんやりとしてきたのだ。
そして気づくと夫を噛み殺していた。
私はリビングのテーブルの上に置いてある電話を肉球の大きくニャった手で引き寄せ、爪を最大限に伸ばして110番した。

「はい110番です。事件ですか?事故ですか?」
「あの、事件だと思います」
「なにがあったんですか?」
「夫を噛み殺してしまいました」
「ははぁ、噛み殺した? あなたが旦那さんを?」
「そうニャんです。ネコ缶がどうしても見つからニャくて。それでニャんだかぼーっとしてしまって、気づいたら噛みついていて」
「なるほど。いいですか奥さん、落ち着いて聞いてくださいね。お話されてる様子からすると、奥さんはネコ化してますよね?」
「はい」
「旦那さんは?」
「夫はウサギ化がだいぶ進んでいました」
「うん、落ち着いて聞いてくださいね。その場合、警察は何もできないんですよ」
「ニャにもできニャい?」
「ええ、激変緩和措置と言いまして、ネコ化した人によるウサギ化した人への襲撃は、刑法の適用が例外的に除外されています」

ネコ化した妻がウサギ化した夫を噛み殺しても罪に問われニャい?

「奥さん、聞こえていますか?」
「はい」
「刑法犯とみなされませんので、警察のほうもなにもできないということになります。お住まいの自治体に相談窓口があります。
 そちらにつなぎますね」

相談窓口の女性から最初に聞かされたのは、夫をどう処分するかということだった。”献体”を勧められた。
刑法の例外にニャっているニャど聞いたこともニャかったのだけれど、相談窓口の女性によれば、広報にはそぐわニャいとのことで周知していニャいそうだ。
こういう”事故”が起きるたびに都度対応しいているとのことだった。

拘束されニャいままでいると、息子のことも襲ってしまうかもしれニャい。
どうしたらよいかわからず、ある公園に向かった。

先生が体を動かすためにこの公園に来ていることは雑談のニャかで聞いていた。
公園の外周にランニングコースがあってそこを走っているのかと思っていたのだけれど、違った。
先生は空から降りてきたのだ、バサバサっと翼を羽ばたかせて。

「どう?体のほうは?」

いつものように問いかけられて、どう返したらいいものか混乱したけれど、結局自分の問題のほうが優先した。
夫をかみ殺したことを話すと、先生は翼をひろげて羽ばたきふわりと宙に浮かぶと、
私の両肩に鋭い鉤爪を喰いこませた。激痛だけれど、痛すぎて声がでニャい。
先生は私の頭上から諭すように話した。

「自然はそれ自身に変化する能力がある。これもその一つ」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み