文字数 921文字

「それではお天気の前に昨日までのネコ化人数です!」と言って
美人アシスタントがうきうきした顔つきで画面の切り替えを促した。
私も夫も息子も画面を見つめる。

"12,345人"

同時にこの人数を美人アシスタントが読み上げた。

「なるほどな~」と夫がつぶやくと、息子は期待に満ちた顔を私に向ける。
私はその期待に応えるためにあえて夫と同じ言葉を選ぶ。

「ニャるほどニャ~」

それを聞いて息子は笑い転げた。
美人アシスタントもメインの男性も初老のコメンテーターも、まるで私の言葉を聞いたかのように笑顔だ。

「さあ、もう行かニャいと」

夫と息子はそれぞれ自分の鞄を手にして玄関に向かった。
私はリモコンの電源ボタンを押してから出勤の準備を始める。

人類がネコ化を始めたのはいつだったのか、いまだ判然としていニャい。
ネットで噂されているレベルではこうだ。

『曇り空のある日、キャーがニャーに変わった』

このときの「ニャー」を発したのは中年女性だったとの主張があるものの
その手のものはWikipedia上に無数にあって果たしてどれが最初だったのか、
いまとニャっては判然としニャい。

とはいえ、ネコ化は言葉から始まったことは確かだ。
それが発声器官の変化に伴うものか、それとも脳の言語野の変化によるものニャのか
いまだ研究の途上であるとのこと。
いまのところは”退行現象”だと解釈されてはいるけど、いずれは必然的ニャ”進化”であると
みニャされることにニャるはずだ。

「な」の「ニャ」への変化が大規模に観察されたあと、これまでは他の言葉の変化は報告されずにいる。
「キャー」の「ニャー」への変化も含めてだ。Wikipediaの記述はやはり鵜呑みにはできニャい。
いまも世界中の研究所が大規模かつ緻密ニャ調査を継続している。

ドアの鍵を苦労してかける。
言語よりも大きニャ変化は身体に起こっている。
通勤路ではわずか5分間ほどの間に数百人とすれ違う。
その外見は短い期間で大きく変わった。
私の両の手の平にもすでに肉球と思われる膨らみがある。
ボールペンや鍵といった小さいのものをつかむことには苦労する。
面ファスナーを鍵と手袋につければだいぶ楽にニャるのだけれど、面ファスナーはどこも売り切れだ。
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