文字数 1,509文字

駅に向かう途中の横断歩道の信号待ちで先生と合流した。
毎日というわけではニャいけれどちょくちょく一緒にニャる。

「どうかしら?体のほうは」
「うーんニャんともニャいね」
「そう、それはよかった。うちの大学病院でも増えてきたよ、ネコ化」
「先生はまだニャんにも?」
「うん、私もないし、我が家の年寄りたちにもなんにもないね」
「ニャんでネコニャのかニャ?」

信号が変わって歩き出してからも先生はしばらく考えているようだ。

「自然にはそれ自身に変化する能力がある」
「え?」
「単なる変化っていうことなんじゃないかしら」
「それにしては混乱してニャい?」
「混乱の向こう側に安定があるのよ。学級経営も同じでしょ?」
「それはそれは難しいこと」

駅構内に入って改札を通る。

「そのうち落ち着くわよ。ネコにもウサギにもハムスターにも、それぞれ役割があるんだから」
「役割って?」
「あぁ、えぇ、じゃ私こっちだから。またね」

そう言って先生は下りホームへ向かった。
私は上りホームへ降りて女性専用車両の目印のところに向かう。
顔だけ知っている女子高生の二人組がいる。
背の高い子と普通の背丈の子で二人とも女性専用車両の常連だ。
普段よりも近づいて立って会話を盗み聞きした。

「もうあの日焼け止めクリームは使えニャい」
「えーなんでー?」
「毛が生えてきちゃって」
「きゃー何柄?」
「まだ柄まではわかんニャいよ。茶トラがいいんだけど」
「いいねー茶トラ、私だったら三毛かなー」
「三毛もいい」
「茶トラも三毛も両方いいよー、ねー肉球見せて」
「また?」
「いいじゃんいいじゃん」

そう請われて背の高い子が肉球が出来始めている手の平を上にして差し出した。
私の手の平にもそれらしい膨らみが出来てはいるがまだまだ小さいし、体毛も生じてはいニャい。
背の高い子の耳はもはや間違うことニャきネコ耳だ。
肉体の変化は個人差が大きいらしい。

「ほんとにぷにぷにだよね」
「ちょっとくすぐったい」
「あーあたしも早くネコ化しないかなー」

そうこうしているうちに電車がホームに進入してきて、強い風が吹いた。
彼女たちのニャがい髪の毛がニャびく。


校門を通って職員室に入ると、もう大方そろっていた。いつもより早い。
職員朝会が始まると、校長がいつもより張り切った様子で話す。

「私たちの報告がかつてないほど重要となっています。この国がどう変化していくのか、
 どのように変化していくべきなのか、それを、それほどの重要な意思決定が、私たちの報告で
 決まるといっても過言ではないのです。」

校長の演説を聞きニャがら、とニャりのクラスの担任が小声で話しかけてくる。

「校長、選挙にでも出るつもりかしら」
「ニャんか興奮してるね」

「文科省から子供たちの変化は成人よりも速いという連絡が来ています。
 登校してから帰宅の間に変化していたという事例もあります。
 また変化の内容も、ネコ、ウサギ、ハムスターだけとは限りません。
 少数ですが、他の変化も出てきているとのことです」


「他ってどういう? トラ?ライオン?」
「そうニャったらもう学級崩壊ね」
「ドラゴンとか?」
「それ架空の動物だから」
「じゃ、イケメン?クラス全員がイケメンに変化して私のことを慕ってくるの」
「それ教育委員会が出しゃばってくるんじゃニャい?」
「やめて」

校長が教頭と交代する。

「ではいまいちど確認です。
 朝の会と帰りの会の両方で、必ず、変化の確認をしてください。
 帰りの会のときに変化が認められたときは、必ず親御さんに迎えに来てもらってください。
 それと報告書も、毎日、提出ですからね。毎日ですよ」

とニャりのクラスの担任がささやいてくる。

「やっぱりネコぐらいがちょうどいいのよ。基本穏やかだし」
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