第5話
文字数 1,494文字
アイシアへ
元気にしていますか?風邪をひいたりやっかいな人に絡まれたりしていませんか?
こちらは元気にやっています。そうそう、本で見た聖女様や聖人様達が居てびっくりしたけれど今では仲良く過ごせています。
分かってはいたけれどアイシアが居ない生活は寂しくて何をしたらいいのかわかりません。
それをマナティス様に言ったら今までの分ゆっくりしたらいいんだよと言われてしまいました。
ゆっくりするっていうのは中々難しくて、結局マナティス様にアイシアの話をしてしまっています。
そう言えば、星見の神の聖女になってから髪の毛の色が蜂蜜酒の色に変わったので、今度会う時に驚くと思います。
それではまた。
あなたの一番の友人のレミィより
追伸 天界のお花を押し花にして栞を作ってみました。良ければ使って下さい。
「あの子は変わらないわね」
私は便箋を折りたたむと封筒にしまい、引き出しの中にしまった。そして栞だけ机の上に置いておいた。これでいつでも眺めることが出来る。
「お返事今書きますか? また今度にします?」
「今度にするわ」
「じゃあいつも通り書いたらベルを鳴らしてくださいね~」
郵便配達員の彼はそう言うとバチンとウインクをして姿を消した。
「それにしても今度会う時って、私の寿命が終わるってことなのかしら……?」
レミィの手紙に不審な内容があったことだけが気になるが死期が近いならそう予言があるだろうと私は思い、栞をじっくりと見つめた。
薔薇の花に似たそれは押し花になっても甘い香りが香って来てインテリアにも丁度いい。
寿命が尽きるつもりはさらさらないが、レミィに会える日が近いのは楽しみだ。
そんな風に思いを馳せていると扉がノックされ「大聖女様よろしいでしょうか」と声がかかるので、「どうぞ」と言い大聖女としての仕事に戻るのだった。
大聖女としての仕事を引退して何年たっただろうか。結局レミィの不穏な手紙の後にもなんどか二人揃って大聖堂の間に来ては話をして帰って行った。その際に「お迎えが来るのかと思ったわ」と言えば「アイシアはまだ大聖女のお仕事がるから……」と残念そうにレミィは返し「きみ以外に大聖女を任せられる人がいないんだよね」とマナティス様は仰っていた。
今でもレミィとの手紙のやり取りは続いており、それが生活の中での唯一の楽しみだった。
ベッドに横たわり、明日は何をしようかと考えながら目を瞑る。木苺のジャムでも煮ようかしら。
「アイシア」
聞き慣れた声にぱちりと目を開ける。この声を聞き間違えることはないだって、この声は――。
「レミィ!」
勢いよく身体を起こし彼女の名前を呼ぶ。
「迎えに来たよアイシア」
レミィは小さな少女の姿で、あのはじめて会った時と髪色以外は同じ姿で立っていた。
月光に照らされた蜂蜜酒色の髪は輝き星見の聖女の名に相応しい容貌だった。
ほらね、やっぱりと思う。幼少期に思った通りだった。こんな子が聖女だったらみんなが嬉しいんだから。私の目は間違っていなかった。
「行こう、アイシア」
「ええ、レミィ」
差し出されたアイシアの手に私は手を重ねてぎゅうと握る。
その私の手もレミィの手と同じ小さな手の平になっていて不思議だなと振り返れば、そこには老いた私が眠っていた。そうか、私は死んだのか。だからアイシアが迎えに来てくれたのね。
「いっぱい遊ぼう! アイシア!」
「仕方ないわね」
うそ、本当は楽しみで仕方ない。
ようやく自由になれるのだ。教会で過ごしたことが嫌だった訳ではない。それでも自由に憧れはしたのだ。窓を開け硝子のような板で作られた階段を二人で上ってゆく。
さあ時間はたっぷりとあるのだ、何をして遊ぼうか。
元気にしていますか?風邪をひいたりやっかいな人に絡まれたりしていませんか?
こちらは元気にやっています。そうそう、本で見た聖女様や聖人様達が居てびっくりしたけれど今では仲良く過ごせています。
分かってはいたけれどアイシアが居ない生活は寂しくて何をしたらいいのかわかりません。
それをマナティス様に言ったら今までの分ゆっくりしたらいいんだよと言われてしまいました。
ゆっくりするっていうのは中々難しくて、結局マナティス様にアイシアの話をしてしまっています。
そう言えば、星見の神の聖女になってから髪の毛の色が蜂蜜酒の色に変わったので、今度会う時に驚くと思います。
それではまた。
あなたの一番の友人のレミィより
追伸 天界のお花を押し花にして栞を作ってみました。良ければ使って下さい。
「あの子は変わらないわね」
私は便箋を折りたたむと封筒にしまい、引き出しの中にしまった。そして栞だけ机の上に置いておいた。これでいつでも眺めることが出来る。
「お返事今書きますか? また今度にします?」
「今度にするわ」
「じゃあいつも通り書いたらベルを鳴らしてくださいね~」
郵便配達員の彼はそう言うとバチンとウインクをして姿を消した。
「それにしても今度会う時って、私の寿命が終わるってことなのかしら……?」
レミィの手紙に不審な内容があったことだけが気になるが死期が近いならそう予言があるだろうと私は思い、栞をじっくりと見つめた。
薔薇の花に似たそれは押し花になっても甘い香りが香って来てインテリアにも丁度いい。
寿命が尽きるつもりはさらさらないが、レミィに会える日が近いのは楽しみだ。
そんな風に思いを馳せていると扉がノックされ「大聖女様よろしいでしょうか」と声がかかるので、「どうぞ」と言い大聖女としての仕事に戻るのだった。
大聖女としての仕事を引退して何年たっただろうか。結局レミィの不穏な手紙の後にもなんどか二人揃って大聖堂の間に来ては話をして帰って行った。その際に「お迎えが来るのかと思ったわ」と言えば「アイシアはまだ大聖女のお仕事がるから……」と残念そうにレミィは返し「きみ以外に大聖女を任せられる人がいないんだよね」とマナティス様は仰っていた。
今でもレミィとの手紙のやり取りは続いており、それが生活の中での唯一の楽しみだった。
ベッドに横たわり、明日は何をしようかと考えながら目を瞑る。木苺のジャムでも煮ようかしら。
「アイシア」
聞き慣れた声にぱちりと目を開ける。この声を聞き間違えることはないだって、この声は――。
「レミィ!」
勢いよく身体を起こし彼女の名前を呼ぶ。
「迎えに来たよアイシア」
レミィは小さな少女の姿で、あのはじめて会った時と髪色以外は同じ姿で立っていた。
月光に照らされた蜂蜜酒色の髪は輝き星見の聖女の名に相応しい容貌だった。
ほらね、やっぱりと思う。幼少期に思った通りだった。こんな子が聖女だったらみんなが嬉しいんだから。私の目は間違っていなかった。
「行こう、アイシア」
「ええ、レミィ」
差し出されたアイシアの手に私は手を重ねてぎゅうと握る。
その私の手もレミィの手と同じ小さな手の平になっていて不思議だなと振り返れば、そこには老いた私が眠っていた。そうか、私は死んだのか。だからアイシアが迎えに来てくれたのね。
「いっぱい遊ぼう! アイシア!」
「仕方ないわね」
うそ、本当は楽しみで仕方ない。
ようやく自由になれるのだ。教会で過ごしたことが嫌だった訳ではない。それでも自由に憧れはしたのだ。窓を開け硝子のような板で作られた階段を二人で上ってゆく。
さあ時間はたっぷりとあるのだ、何をして遊ぼうか。