第1話
文字数 2,755文字
ここは聖女を神からのお告げの聞き役として戴く聖国マナティス。
その聖女たちは天高くに存在する神の声を聞くため星見の聖女と呼ばれていた。
そんなこの国には少し特殊な法律がある。
十七歳までの男女問わず花の痣が身体の何処かに発現した場合は時期聖女、聖人候補として大教会にて暮らすこととなっている。痣が発現する年齢は様々で生まれて直ぐに発現する者が居れば十歳を過ぎてから発現するもの居る。そうして十七歳までを教会で過ごし、十七歳以降は本人の意志に委ねられ、教会に残る者もいれば教会から出て結婚する者もいる。
男女問わずといったが圧倒的にその数は女性が多く、痣が発現した者は神に選ばれる者として婚約者候補に困らないのだ。
さて、私レミィ・パーカーはパーカー家の長子であり聖女候補の一人だ。
年齢は十七歳、くりくりとした赤毛を腰まで伸ばし、瞳の色はミモザの花と同じ黄色い色をしている。
なぜ十七歳の私が教会に居るのかと言えば、十七歳の誕生日に突如蔦の痣が指先から腕まで絡み付くように発現し、喜んだ両親に教会に連れて来られてしまったのだ。そして、そのまま教会で暮らすことになったのだが、なにぶん十七歳未満が対象なのだ。私は本来であれば外れているはずなのに教会側が一年あれば能力が発現するかもしれないので様子を見ましょうと言ったのだ。まったくもって大きなお世話である。
しかし今までの聖女は皆、花の痣を持ちその痣の花を咲かすことが出来たのだ。
その点、私は蔦だ。仮に能力が発現しても蔦を生やすだけだ。これでは何も咲かすことが出来ない。だって蕾さえついていないのだ。ああ、こんなことなら痣なんて出現しなければよかったのに。
「ちょっとあなた聞いているの?!」
言葉と共にバシャ、とコップに入った水をかけられた。
そこで意識が浮上し目の前に居た少女たちを睨み付ける。
「な、なによ」
「べつに?」
睨んだだけで怯むならやらなきゃいいのにね。
彼女たちが言うには私は生意気らしい。蔦の痣しかないくせに教会に居座り聖女候補であろうとするなんて厚かましい。さっさと教会から出て行け、とのことだ。
教会から出て行っていいならさっさとそうしているっての。
こちとら好きで教会に居る訳じゃないのに。
そもそも妹や弟と同じ年齢の少女にキャンキャン吠えられても微笑ましいだけである。
「あなたなんか聖女に選ばれる訳が無いんだから!」
「そうよ! 次期聖女のアイシア様の邪魔なのよ、さっさと辞退すればいいんだわ!」
それが出来たらやってるんだよなあ。
ここに残っているのは大司教様から一年様子を見ましょうと言われたことと、両親が喜んでいたからだ。今まで平々凡々に暮らしてきた自分が(婚約者候補も決まっていなかったいわゆる行き遅れの私が)、両親を喜ばすことが出来るなら、と思い了承したのもある。
そう、つまり親孝行の一環なのだ。
十八歳の誕生日までここに居て何も起こらないのを確認してから教会からおさらばする。完璧な計画があるのだ。
「聞いてるの?!」
パシャ、ともう一杯コップの水をかけられた。
おいおい、水も有限なんだぞ無駄遣いをするな。
この、食堂で繰り広げられる茶番は私が教会に入ってから毎日行われている。ただそろそろやめた方が良い気がするんだけどな。
「あなたたち! 何をしているの!」
ほら、ボスのお出ましだ。
「ア、アイシア様……」
「これは……その」
怯んだ二人がおかしくて私は二人から見えないように舌を出した。
現れたのはアイシア・ハルバート。ハルバート家の長子で現在は十六歳、薔薇の痣を左手の甲に持ち、十歳の頃から教会に居る古参の少女だ。金糸のような金髪をカチューシャで纏め腰まで流しており、その瞳は夜空のように濃い紺色をしている、
その容姿は現在の聖女と似通っていること、星見の名に相応しい容姿の所為で次期聖女と名高く、性格は品行方正よく言えば真面目で悪く言えば堅物だ。
そんなことを考えていたのがバレたのだろうか、アイシアがこちらを見ているのに気が付き両肩を竦める。いつものやつです、という合図だ。
「あなた達、大司教様には報告しないであげるからさっさとここから出て行きなさい」
「はい……」
「すみません……」
アイシアに叱られた二人は先ほどまでの勢いが嘘のようにしょんぼりと肩を落とし食堂から立ち去って行った。
「レミィ~~! あなたって人は! あれほどほいほいついて行くなって言ったでしょう?!」
二人が立ち去った瞬間にアイシアは近寄ってくると私の頬を抓りながら怒る。
「いひゃいいひゃい、ごめんってば」
「もう」
仕方ないわね、とにこりと微笑むアイシア。
いや、こんな美少女居るか?
居ないでしょという位に輝いて見える。それに彼女の痣は薔薇だ。能力も発現しており薔薇の花を願えば咲かすことが出来る。次期聖女は彼女だと良いなと私だって思う。
じーっと見つめていたのに気がついたのかアイシアが「なあに?」と尋ねてくる。
「いや、次の聖女様はアイシアが良いなと思って」
「まったく、レミィまでそんなこと言って……でも私ももう十六歳だから選ばれるかどうかは分からないわ」
滅多に漏らさない弱音を漏らさない次期聖女と名高い少女と私が実は仲が良いのは理由があった。
元々家同士の知り合いではあったが、どちらかというとアイシアは私の弟妹たちとの方が仲が良かった。それでも私とも会話をしたり仲良く裁縫をしたり外で転げまわったりして怒られたりもした。
それが今の様な仲になったのは私が教会に入って直ぐ、恒例のいじめにあっていたら助けに入ったのがアイシアだったのだ。その姿は凛としており思わず惚れるところだった。六年ぶりの再会がこんな風になるとは私もアイシアも思わなかった。
まあ一つ年下のアイシアに助けられている時点で私の方はお察しだが。それでも今まで難癖をつけてきた人はノートにメモをとってある。いつか復讐してやるノートだ。
ただ、最近そのノートを活用できていない。
私に何かしらの嫌がらせをした人物たちが皆、教会から居なくなってしまうのだ。
怪我や家庭の事情、恋愛事情など理由は様々なのだがこちらが仕返しをする前に居なくなってしまっては正直なところ肩透かしなのだ。
そこでふと、昔のことを思い出したのだがそういえば昔からそうだった。
自分にワザと嫌がらせや怪我を負わせたりする者は何かしらのしっぺ返しをくらう。
この歳になってようやく何かに憑りつかれているのではないのか、と思い始めるのも暢気なものだが今までそういうものだと思っていたのだから仕方が無い。
明日あたりにでも大聖女様に相談でもしてみるかと一人ごちるのだった。
そしてそれを耳聡く聞いていたアイシアに「他にもなにかされたの?」と心配されるので慌てて否定をするのだった。
その聖女たちは天高くに存在する神の声を聞くため星見の聖女と呼ばれていた。
そんなこの国には少し特殊な法律がある。
十七歳までの男女問わず花の痣が身体の何処かに発現した場合は時期聖女、聖人候補として大教会にて暮らすこととなっている。痣が発現する年齢は様々で生まれて直ぐに発現する者が居れば十歳を過ぎてから発現するもの居る。そうして十七歳までを教会で過ごし、十七歳以降は本人の意志に委ねられ、教会に残る者もいれば教会から出て結婚する者もいる。
男女問わずといったが圧倒的にその数は女性が多く、痣が発現した者は神に選ばれる者として婚約者候補に困らないのだ。
さて、私レミィ・パーカーはパーカー家の長子であり聖女候補の一人だ。
年齢は十七歳、くりくりとした赤毛を腰まで伸ばし、瞳の色はミモザの花と同じ黄色い色をしている。
なぜ十七歳の私が教会に居るのかと言えば、十七歳の誕生日に突如蔦の痣が指先から腕まで絡み付くように発現し、喜んだ両親に教会に連れて来られてしまったのだ。そして、そのまま教会で暮らすことになったのだが、なにぶん十七歳未満が対象なのだ。私は本来であれば外れているはずなのに教会側が一年あれば能力が発現するかもしれないので様子を見ましょうと言ったのだ。まったくもって大きなお世話である。
しかし今までの聖女は皆、花の痣を持ちその痣の花を咲かすことが出来たのだ。
その点、私は蔦だ。仮に能力が発現しても蔦を生やすだけだ。これでは何も咲かすことが出来ない。だって蕾さえついていないのだ。ああ、こんなことなら痣なんて出現しなければよかったのに。
「ちょっとあなた聞いているの?!」
言葉と共にバシャ、とコップに入った水をかけられた。
そこで意識が浮上し目の前に居た少女たちを睨み付ける。
「な、なによ」
「べつに?」
睨んだだけで怯むならやらなきゃいいのにね。
彼女たちが言うには私は生意気らしい。蔦の痣しかないくせに教会に居座り聖女候補であろうとするなんて厚かましい。さっさと教会から出て行け、とのことだ。
教会から出て行っていいならさっさとそうしているっての。
こちとら好きで教会に居る訳じゃないのに。
そもそも妹や弟と同じ年齢の少女にキャンキャン吠えられても微笑ましいだけである。
「あなたなんか聖女に選ばれる訳が無いんだから!」
「そうよ! 次期聖女のアイシア様の邪魔なのよ、さっさと辞退すればいいんだわ!」
それが出来たらやってるんだよなあ。
ここに残っているのは大司教様から一年様子を見ましょうと言われたことと、両親が喜んでいたからだ。今まで平々凡々に暮らしてきた自分が(婚約者候補も決まっていなかったいわゆる行き遅れの私が)、両親を喜ばすことが出来るなら、と思い了承したのもある。
そう、つまり親孝行の一環なのだ。
十八歳の誕生日までここに居て何も起こらないのを確認してから教会からおさらばする。完璧な計画があるのだ。
「聞いてるの?!」
パシャ、ともう一杯コップの水をかけられた。
おいおい、水も有限なんだぞ無駄遣いをするな。
この、食堂で繰り広げられる茶番は私が教会に入ってから毎日行われている。ただそろそろやめた方が良い気がするんだけどな。
「あなたたち! 何をしているの!」
ほら、ボスのお出ましだ。
「ア、アイシア様……」
「これは……その」
怯んだ二人がおかしくて私は二人から見えないように舌を出した。
現れたのはアイシア・ハルバート。ハルバート家の長子で現在は十六歳、薔薇の痣を左手の甲に持ち、十歳の頃から教会に居る古参の少女だ。金糸のような金髪をカチューシャで纏め腰まで流しており、その瞳は夜空のように濃い紺色をしている、
その容姿は現在の聖女と似通っていること、星見の名に相応しい容姿の所為で次期聖女と名高く、性格は品行方正よく言えば真面目で悪く言えば堅物だ。
そんなことを考えていたのがバレたのだろうか、アイシアがこちらを見ているのに気が付き両肩を竦める。いつものやつです、という合図だ。
「あなた達、大司教様には報告しないであげるからさっさとここから出て行きなさい」
「はい……」
「すみません……」
アイシアに叱られた二人は先ほどまでの勢いが嘘のようにしょんぼりと肩を落とし食堂から立ち去って行った。
「レミィ~~! あなたって人は! あれほどほいほいついて行くなって言ったでしょう?!」
二人が立ち去った瞬間にアイシアは近寄ってくると私の頬を抓りながら怒る。
「いひゃいいひゃい、ごめんってば」
「もう」
仕方ないわね、とにこりと微笑むアイシア。
いや、こんな美少女居るか?
居ないでしょという位に輝いて見える。それに彼女の痣は薔薇だ。能力も発現しており薔薇の花を願えば咲かすことが出来る。次期聖女は彼女だと良いなと私だって思う。
じーっと見つめていたのに気がついたのかアイシアが「なあに?」と尋ねてくる。
「いや、次の聖女様はアイシアが良いなと思って」
「まったく、レミィまでそんなこと言って……でも私ももう十六歳だから選ばれるかどうかは分からないわ」
滅多に漏らさない弱音を漏らさない次期聖女と名高い少女と私が実は仲が良いのは理由があった。
元々家同士の知り合いではあったが、どちらかというとアイシアは私の弟妹たちとの方が仲が良かった。それでも私とも会話をしたり仲良く裁縫をしたり外で転げまわったりして怒られたりもした。
それが今の様な仲になったのは私が教会に入って直ぐ、恒例のいじめにあっていたら助けに入ったのがアイシアだったのだ。その姿は凛としており思わず惚れるところだった。六年ぶりの再会がこんな風になるとは私もアイシアも思わなかった。
まあ一つ年下のアイシアに助けられている時点で私の方はお察しだが。それでも今まで難癖をつけてきた人はノートにメモをとってある。いつか復讐してやるノートだ。
ただ、最近そのノートを活用できていない。
私に何かしらの嫌がらせをした人物たちが皆、教会から居なくなってしまうのだ。
怪我や家庭の事情、恋愛事情など理由は様々なのだがこちらが仕返しをする前に居なくなってしまっては正直なところ肩透かしなのだ。
そこでふと、昔のことを思い出したのだがそういえば昔からそうだった。
自分にワザと嫌がらせや怪我を負わせたりする者は何かしらのしっぺ返しをくらう。
この歳になってようやく何かに憑りつかれているのではないのか、と思い始めるのも暢気なものだが今までそういうものだと思っていたのだから仕方が無い。
明日あたりにでも大聖女様に相談でもしてみるかと一人ごちるのだった。
そしてそれを耳聡く聞いていたアイシアに「他にもなにかされたの?」と心配されるので慌てて否定をするのだった。