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「これ何で漆原さんの承認必要だと思う? BOXなんてこっちで勝手に送っちゃえばよくない?」
「あー……そういやそうですよね……」
「実はね、これは色々決まりがあるの」

 女性社員はラミネートされたA4の紙を取り出すと、そこには宅配便に関する様々な情報が書いてあった。通常の宅配便やパソコン専用BOX、そしてアンドロイド専用BOXについてだ。
 アンドロイド専用BOXは多種多様だ。素材や大きさ形など、どんなアンドロイドにも対応できるようバリエーション豊富に用意されている。

「どれを使うかはある資格所持者が決めないといけないって配送業者の規則にあるんだ。知ってる?」
「あ、アンドロイド管理資格三級」
「そう。正解」

 一般的に、パソコン専用BOXは破損や紛失に対してある程度の補償がある。だがアンドロイド開発素人の宅配業者では取り扱い方法が分からない事が多い。何をしたら駄目なのか、そんな細かい事までは分からないのだ。そのうえあまりにも高額商品のため宅配業者は責任を持ちたくない。
 そのため、どのBOXを使うかはお客さん側で専門家のオッケー貰ってくれ、こちらでは責任を持たないから、という事になっている。

「メール室はみんな三級持ってるけど派遣社員なの。でも配送業者は正社員じゃないと駄目って規則になってるんだ。だから社員の承認が必要。だから上長の漆原さんが承認するってわけね」
「ほー……」
「けど漆原さん忙しいから承認いっつも後回しなの。ちょっと突いといて」
「分かりました。有難うございます、色々教えてくれて」
「どういたしまして。漆原さん落とせたら教えてね♪」
「そ、そんなことしにインターンしてません」
「またまたぁ」
「じゃ、じゃあよろしくお願いします!」

 美咲は顔が熱くなるのを感じて、ばたばたとその場を走り去った。
 そして翌日、早くも美咲の自宅にアンドロイドの配送専門の宅急便BOXが届いた。アンドロイドやパソコンのように繊細な機器には専用の梱包資材があるのだ。
 美咲は丁寧にアンドロイドを梱包し会社へ配送すると翌日には会社に届いたようで、メール室からインターンのフリーアドレス席付近まで配達されていた。ここまでやってくれるのか、と美咲はメール室のある方向へ手を合わせ拝むように頭を下げた。

「何の宗教?」
「漆原さん! 見て下さい! 出勤したら届いてました! メール室って持って来てくれるんですね!」
「そらそーだろ。そういう部署だ」
「あー、感謝の気持ちが無い。毎日の事だから当然と思ってたら罰あたりますよ」
「はいはい。で? それが拾ったアンドロイド?」
「です。開けよう開けよう」

 専用梱包なだけに、揺れ動いても大丈夫なようにガッチリ固定され隙間なく緩衝材が詰められているから取り出すのも一苦労だ。梱包した時は気付かなかったが取り出すのは力仕事で、ふんぎぎぎぎ、と美咲は引っ張り出そうとしたがそれでも出てこない。

「力任せに引っ張るな。壊れるだろ。こっち外すんだよ」
「え? あ、そうなんですか。先に言って下さいよ」
「開封方法の説明書付いてんだろ。まずは説明を読め」

 漆原は同封されていた紙を拾って美咲の額にぺんっと貼り付けた。普通に渡してくれよとブツブツ文句をこぼすが、その間に漆原はするすると開封を続けあっという間にアンドロイドを取り出した。そしてアンドロイドをすぐ隣のフリースペースに寝かせると、何も見ずに解体をし始めた。

「あ、あの、そんな適当に開けちゃって大丈夫ですか」
「適当なわけねえだろ。設計図通りやってる」
「嘘ですよ。明らかに何も見ずにやってるじゃないですか」
「んなの覚えたに決まってんだろ」
「うえっ!?」

 自分が作った物ならまだしも、他人の、それもチーム複数名で検討した設計図を暗記するなんて普通は無理だ。いや、自作であっても全て暗記は無理だ。それをこの数日で全て記憶したなんて到底美咲には考えられない。

「……実は漆原さんがアンドロイドですか?」
「寝ぼけるのは寝起きだけにしろ。ほら。俺の作業独占なんてレアだからガン見しとけ」
「は、はいっ!」
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