文字数 1,262文字

 ランチを終えて漆原の会議が終わるのを待ち十四時半。出勤して会社から車で行くとは聞いていたので当然アンドロイド運搬資格所有者、つまりメール室が運転をしてくれるのだろうなと美咲は思っていた。
 だが漆原に連れられて行った駐車場に停められていた車を見て美咲は目をひん剥いた。

「……これで行くんですか……」
「そうだよ」

 アンドロイド運搬用というのは大きなトラック型である場合が多い。運転の振動で壊れないために厳重な梱包をするからだ。決してスポーツカー、しかも二席しかないオープンカーでは運ばない。

「何故にオープンカー……?」
「俺の車でアンドロイド対応してるのこれだけなんだよ」
「これアンドロイド対応なんですか!? というかアンドロイドはどこに?」
「トランク」
「壊れますよ! ただでさえ壊れてるのに!」
「壊れねえよ。エアバッグで梱包材が隙間なく膨らむようになってるから」
「えっ、何ですかその機能。そんなスポーツカーあります?」
「ねえよ。作った」
「げ~。それいくらかかるんですか?」
「二、三千万かな。多分」
「げぇ」

 アンドロイドの中でも高単価のラバーズを五台買おうと思ったら最安中古でも二千万円は必要だ。新機種ならもっといくだろう。そんな財が二十代の給料でぽんと出せるものなのか。それとも、漆原ほどの人物であればそれくらい楽々稼いでしまうのだろうか。
 よく見ると今日着ているスーツもとても高そうに見える。色は一般的にはあまり見ないつややかなボルドーでシャツは黒。これだけでもホスト感を感じるが、さらにネクタイは見た事もない柄の地模様がある赤。加えて顔面の仕上がりも強いせいでホスト感はあるものの、いつもぴょんぴょん飛び跳ねてる髪をきちんと整えているせいかふざけているようには見えなかった。

「……漆原さんて年収いくらですか?」
「もうちょい色気ある質問できねえの?」
「例えば?」
「私以外の女を乗せた事あるの!? とかさ」
「その顔で無い方がびっくりしますけど……」
「二人きりでドキドキしちゃう! とか無いわけ?」
「ドキドキして欲しいなら私のランチを漆原さんへの熱狂で潰す女性社員を乗せたらよいのでは?」 
「お前アンドロイド背負って歩くか?」
「あ、嘘です。ごめんなさい。ドキドキしちゃう」
「はい、どーも」

 何だこの茶番は、と思いながら美咲は助手席に乗り込んだ。いかにも高級そうなレザーのシートだが、スポーツカーだからかひどく狭い。きゅうっと身体を縮めてなんとか収まるように座ったが、座席がこうではトランクはもっと苦しいのではないだろうか。

「あの子大丈夫かなあ」
「誰?」
「アンドロイド。トランクに押し込んでるんでしょう?」
「……それは何だ。トランクが狭いから可哀そうとか思ってるんじゃねーだろうな」
「え、そうですけど」

 当たり前のように答えると、漆原はあんぐりと口を開け美咲を見た。美咲はその表情が何を言いたいのか分からず首を傾げたが、それを見て漆原はさらに大きなため息を吐いた。

「何ですか」
「着くまでにアンドロイド依存症の初期症状を復習しとけ」
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