数字・衝動買い・チェックメイト

文字数 981文字

 全くここのところついていない。
 営業成績は全くふるわず、上司には怒られてばかり。
 数字を上げろ、数字を上げろと来たもんだ。
 なにが数字だ。
 そんなことにばっかりこだわっているから、逆に業績が上がらんのだ。
 せせこましい効率や数字にこだわって大局観が見えんようではいかん。
 しかしながら、俺自身、そうしたせちがらさにとらわれがちな毎日ではある。
 ここはひとつ、ちょっとそうしたことから離れてみようじゃないか。
 そう思った俺は、デパートにやって来ていた。
 あちこちの店を見回って、『ぴん』と来るものを探す。
 やがて、一個のベッドが、家具屋に置いてあるのを見つけ、びびっときた。
 俺は、店員を呼び、
「これください」
 と言った。
 ベッドだけに額が額なので店員は驚いたような顔をして、
「もしよろしければ同価格帯の他の商品とのご比較でも……」
 などと言ってくるが、俺は手を振って、
「いえ、これでいいんです。衝動買いですから」
 と答えた。
 そう。
 つまり、直感に従ってみることで、日ごろの数字数字の毎日から解放されようというわけだ。
 俺はベッドを衝動買いした。
 結構な大金だったが、働いているぶんには払えない月賦ではなかった。
 数日後、ベッドが家に届いた。
 寝てみると、悪くない。
 これからはいい夢が見れそうだ。

 ベッドが届いてから数日後。
 俺は、部長から話があるので会議室に来るようにと言われた。
 なにかと思って会議室に行ってみると、沈痛な面持ちの部長がいた。
 そして、部長が言うには、
「この景気ではね。君のような業績の上がらない社員を雇っていくわけにはいかんのだ」
 とのこと。
 つまり、俺はクビである。
 もちろん、形式上は退職勧奨の上で自己都合退職ということになるのが、俺の気分としてはクビだ。
 会社員としてチェックメイトを言い渡されたというわけだ。
 食い下がってもどうにかなるようなものではないだろう。
 俺は、落ち込んで家に帰った。
 この前買ったばかりのベッドが目に入る。
 まさか、こんなことになるとは。
 これから、こいつの月賦をどう払っていけばいいのだろう?
 俺はそう思いながら、ベッドに身を放り投げた。
 ベッドに着地した瞬間。
 ミシミシと音が鳴って、ベッドがバリンと割れた。
 ――俺の人生は、いよいよチェックメイトが近づいているんだろうか。
 そう思い、俺は泣いた。
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