枯草・画家・紐

文字数 475文字

 枯草が辺り一面に広がっている。
 その中心で画家がキャンバスを広げていた。
 といって、画家は枯草を描いているわけではない。
 いや、枯草も含まれはするか。
 かといって、枯草自体が画家の描きたいものというわけではなかった。
 彼が描いている対象は、『紐』である。
 では、彼は枯草の上に転がった紐を描いているのであろうか?
 もちろんそんなわけはない。
 紐というのはもちろん、なにかを縛るためにあるものである。
 あるいはくくる、と言ってもよい。
 紐の存在する理由は、結局のところそこである。
 画家が描いているのは、紐がくくっているものであった。
 紐は、人の首に縛られていた。
 そして、もう片方の結び目は枯れ木の枝に。
 つまり、画家が描いているのは、枯れ木に紐をつないで首をくくっている人間であった。
 枯草の広がる草原の中で、画家は、枯れ木で首をくくった誰かを描いていた。
 それは画家自らの作り出した光景であろうか、たまたま発見した状況をキャンバスに写し取ろうとしたものであろうか。
 いずれともしれない。
 画家はただ、一心不乱にキャンバスに筆を動かし続けている。
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