第2話 Wedgwood Christmas Plate 1997

文字数 3,724文字

【本日のお品書き】

Wedgwood Blue Jasperware Nativity Christmas Plate 1997

Wedgwood Blue Jasperware Trinket Bean Box Kidney Shaped Pegasus Angels VINTAGE

I Saw Mommy Kissing Santa Claus♪

ふんふんふんふん ふんふん last night♪

あー、そのメロディ、聞いたことある。

街中でよくかかっているよね。

うん、だれの曲だっけ?
え、ビートルズ?
ビートルズのクリスマス・ソングは、"Christmas Time is Here Again"だよ。

ええと、ビートルズは、

A very Merry Xmas

And a happy New Year

Let's hope it's a good one♪

……じゃないの?

それは、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの"Happy Xmas"ね。
そんな今日のディスプレイのイチオシは、ウェッジウッドのクリスマス・プレートです!
おおー、毎年、クリスマス時期しか飾らないやつ!!
陶器や磁器の世界では、毎年、その年の年号を刻んだ特別な絵皿である「イヤー・プレート」を発表するという伝統があるのよ。
この青い絵皿には「1997」とはっきり刻まれているから、1997年にリリースされたというわけね!
そうそう、通常、その年の生産分を作り終えると、絵皿のための原型が壊されてしまって、二度と同じデザインが作られないことから、発売年が過ぎたものは、プレミアが付くことがほとんどなのよね。
イヤー・プレートの絵柄のモチーフって、クリスマス限定なの?

クリスマス・プレートだけでなく、マザー・プレート(母の日)なんてのもあるわよ。

でも、イヤー・プレートの始まりはクリスマス・プレートからだから、やっぱりクリスマス柄は特別な感じがするわね。
デンマークの陶磁器メーカーであるBing & Grondahl(ビングオーグレンダール)が、1895年に発表した「コレクター・プレート」が、世界で初めて作られたクリスマス・プレート(イヤー・プレートだと言われている。


ビングオーグレンダールに続いて、同じくデンマークの陶磁器メーカーであるRoyal Copenhagen(ロイヤル・コペンハーゲン)が、1908年に「聖母マリアと子供」というモチーフのイヤー・プレートを発表した。

その後、ロイヤル・コペンハーゲンは1908年から現在まで100年以上にわたって、毎年イヤー・プレートを作り続けている。

ロイヤル・コペンは、二度の世界大戦中もイヤープレートを毎年、作り続けていたんだね……!?
そう、イヤー・プレートがロイヤル・コペンハーゲンの代名詞となったことから、さまざまな陶磁器メーカーが趣向を凝らしたイヤー・プレートやクリスマス・プレートを作るようになったのよ。
それで、今日のクリスマス・プレートの話がようやく始まるわね。
これは、ウェッジウッドが1997年に発表したジャスパーウェアのクリスマス・プレートなの。
陶磁器は専門外だけど、さすがにウェッジウッドの名前ぐらい知ってるわよ。
ほら、この白いカメオ装飾を見て!

イエス・キリスト降誕の場面がモチーフなのよ。

「NATIVITY」という文字がレリーフされているわね。
nativity(ナティヴィティ)とは、英語で「誕生・出生」を意味する言葉で、イエス・キリストの降誕、つまりはクリスマスの意味で使われるの。
なるほど、キリストの降誕劇を模型で再現した「ナティヴィティ」は、クリスマス・シーズンには欠かせない飾りつけなのね。

イエス・キリストの降誕の場面を再現した飾りつけは、英語圏では「ナティビティ」と言うけど、イタリアなどのカトリックの地域では、ラテン語の「飼い葉桶」に由来する「プレゼピオ」と呼ばれているそうよ。

イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。
母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。
夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。
このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。
「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」
このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。
 「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。
 その名はインマヌエルと呼ばれる。」
この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。
ヨセフは眠りから目覚めると、主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。
そして、その子をイエスと名付けた。

(マタイによる福音書 1章18節~23節より)

六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。
ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。
そのおとめの名はマリアといった。
天使は、彼女のところに来て言った。
「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」
マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。
すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」
マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」
天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」
マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」
そこで、天使は去って行った。

(ルカによる福音書 1章26節~38節より)

カメオを見ると、イエスを抱く母マリア、傍らに養父ヨセフ、二人の天使たちと星がレリーフされているわね。
カメオに刻まれたヨセフは、眉間にシワを寄せて、もの思いに沈む表情に見えるわ。

いいなずけが誰の子かわからない子を身ごもって、複雑な心境だったのかしら……

カメオに刻まれた二人の天使は、マリアに「受胎告知」をした天使ガブリエルと、ヨセフに「マリアを妻として迎え入れなさい」とお告げをした主の天使を描いているのだと思うわ。
一緒に飾ってる、この青い小箱もウェッジウッドなんでしょ?
うん、ウェッジウッドのジャスパーウェア独特のペールブルーがきれいよね。
この絵皿も小箱も質感が不思議だけど、これって陶器なの?

陶器にしてはざらっとしてると言うか……

これはストーンウェア(炻器)と言って、陶器と磁器の中間にあたる焼き物なの。

半磁器、焼締めとも呼ばれているわね。

色合いも不思議……。

絵付けしているわけじゃなくて、もともとの土の色が青いのね?

そう、陶器の素材そのものに色素を練り込んでいて、美しい地色を生み出しているの。

地色の魅力を引き出すため、施釉されず、絵付けも行なわれないのよ。


ジャスパー(碧玉)から名前がとられて、「ジャスパーウェア」と呼ばれているわ。

ウェッジウッドは、後に「イギリス陶工の父」と称されるジョサイア・ウェッジウッドによって、1759年に創立された。


ジャスパーウェアは、ジョサイア・ウェッジウッドが作陶技術の研究と創作を日夜続け、4年あまり1万回もの試作を繰り返して完成させた、ウェッジウッドの代表作である。


ジャスパーウェアは、独特の美しい色合いの素地に、白いカメオのレリーフ装飾が施されている。

一度焼成すると、粘土の状態の時から約15%縮むため、薄いカメオをうまく合体させることは高度な技術が必要とされる作業である。

青い地色と白いカメオ装飾が互いを引き立て合って、芸術的だと思うわ!
今回のクリスマス・プレートと小箱は、オレゴン州ポートランドのアンティーク・モールで買った思い出の品なのよ。
観光地でもなんでもない、地元の人しか行かないようなアンティーク・モールに、よく行って帰ってこれたね。

見た目よりも行動力あるわ、あんた……

モールまでバスで往復したんだけど、正直、乗っていて怖かったわ……
バスが怖いってどゆこと?
アメリカは基本、車社会なのよ。

だから車に乗ることができない、公共交通を利用するしかない人というのは当然、低所得者層なの。

ああ、だからバスが治安悪いわけか。
このクリスマス・プレートを見ると、あの日の思い出がよみがえるわね。
ベリー・メリー・クリスマス!!
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登場人物紹介

七里香(ななりか)


デザイナーズトイを集めている。

アート全般に興味があるが、特にロウブロウアートが好き。

「ぎゃらりい熊四手」のオーナーの孫。

杏子(あんず)


ファイヤーキングを中心に1930~1980年代のアメリカン・ヴィンテージグラスウェアを集めている。

「ぎゃらりい熊四手」のカフェ担当。

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