第6話 Fire King BOSCO Mug 1940's

文字数 3,143文字

3月某日、ぎゃらりい熊四手。
ただいまー!

おかえり! 青林檎高原に行ってきたんだよね?

おみやげは?

はい、おビール!
なんでスキーリゾートのおみやげが、ビールつめあわせセットなのよ?
そこで、ともだちが経営するブルワリーを手伝ってきたのよ。

日中は醸造所でビールのびんづめ作業をして、夜は直営のビアバーで働いてきたわ。

え、ビールのびんづめって手作業なの?

ベルトコンベヤーでびんが運ばれていって、自動でビールが充填されて、栓がされるんじゃないの?

いやあ、地元の小さな醸造所にそんなすごい設備ないわよ。

1本1本、手作業で充填して、栓をして、ラベルを貼って、ようやく商品になるの。

大手メーカーの工場だったら、そういう想像しているような設備だと思うけどね……
へー、クラフトビールの現場ってそういう感じなのね。
それで、おみやげにわたしが作ったビールをもらってきたの!

まあ作ったと言っても、つめただけだけど……

今年の冬は暖冬だけど、スキー場は大丈夫なの?
たしかに暖冬だったけど、この時期でもちゃんと山には雪があってね、外国からのお客さんが多かったよ。

いろいろな言語が飛び交ってたわ。

楽しそう!

あたしもスキーに行きたい!!

そんな今日のイチオシは、こちら!

【本日のお品書き】

Fire King "BOSCO BEAR" Mug 1940's より

◎Snowball Bear(スノーボール)

Skiing Bear(スキー)

Skating Bear(スケート)

ファイヤーキングのヴィンテージ・アドバタイジング・マグ。

アンカーホッキング社がボスコ社の依頼で作った、通称「ボスコ・マグ」です!

ボスコ・マグ!
ボスコ社のマスコットキャラクターであるボスコ・ベアが冬の遊びに興じる姿をコミカルに描いたもので、「スノーボール」「スキー」「スケート」の全3種セット!
「スノーボール」は、雪合戦の途中に後ろから当てられた場面のようね。

ボスコ・ベアのおまぬけな表情がかわいい!

スピードを集中線で表現していて、漫画的な画風だね。

「スキー」は、斜面をすべりおりてきて、ちょうど転んだ瞬間!
風にひるがえるマフラーや飛び散る雪のかけら、背景のモミの木など、臨場感があるわね!
「スケート」は、氷に穴が開いているのに気づかずにすべっているところのようね。

凍結した池や湖の上でスケートをしているのかな?

ボスコ・ベア、あ、あぶない!

落ちちゃうよー!!

三種類とも、ボスコ・ベアの表情や動きがかわいらしくて、味わいがあるわね。
このボスコ・ベアって、なんのマスコットキャラクターだったの?

ボスコ社は、1928年から現在まで製造されているチョコレート・シロップの老舗メーカーなのよ。

Bosco Chocolate Syrup(ボスコ・チョコレートシロップ)は、1928年にニュージャージー州のカムデンで誕生し、現在まで製造されつづけているチョコレート・シロップのブランド。


オリジナルのレシピでは、モルトエキスとバニラをココアパウダーと組み合わせて、ボスコ独特の風味を生み出していた。

現代ではオリジナルのレシピと異なる原料を使っているため、製品の風味や粘度が変わっているが、「ボスコ」のブランド名を冠している。


製造元のBosco Products Inc.(ボスコ・プロダクツ)は、ニュージャージー州のトワコを本拠地としている。

なるほどー!

ボスコ社は、チョコレート・シロップのメーカーだったのね!

マスコットキャラクターとしてボスコ・ベアが登場するのは、1940年代以降なのだそうよ。

1950年年代のTVCMを見ると、ボスコ・チョコレートシロップは、健康な骨、強い筋肉、より良い歯など、子供の成長に役立つ栄養補助食品、健康食品であるとアピールされているのよね。

高カカオチョコならともかく、ふつうにミルクや砂糖の入ったチョコレートが健康に良いというのは、盛りすぎなんじゃないの?
当時のボスコ・チョコレートシロップは、Bosco Milk Amplifier(ボスコ・ミルク・アンプリファイア)と呼ばれていたそうなの。

1950年代後半から1960年代初頭に子供番組などで宣伝されていたらしいわ。

amplifierって、音楽で使う「アンプ」と同じ言葉よね?

健康増進の意味で、チョコレートを「アンプリファイア」(増幅器)と呼んでいたのね。
このボスコ・マグは、イラストも文字もブラウンの単色で描かれているから、チョコレートシロップの色をイメージしているんじゃないかな?
マグの地色が白いから、まるで牛乳にチョコレート・シロップをかけたみたいね!
そう、この陶磁器のような白い色合いが、ボスコ・マグの最大の特徴なのよ。
そう言えば、前回、ファイヤーキングは耐熱ミルクガラスのブランドって言ってたわよね。

ボスコ・マグは不透明だから、半透明のミルクガラス製じゃなくない?

ボスコ・マグは「VITROCK」(ヴィトロック)と呼ばれる製法で作られているそうよ。

陶磁器のような質感ではあるけど、陶磁器ではなくガラスなのよね。

「ヴィトロック」って、vitreous rocks(ガラス質の岩)に由来する造語なのかな?
ヴィトロック製のガラス食器は、1930年代半ばから1940年代に多く製造されていたそうなの。
1930年代ってことは、ファイヤーキング・ブランドが生まれる前から、アンカーホッキング社はヴィトロックの食器を作っていたわけね。

ミルクガラスとヴィトロックを見比べてみると、透明度の違いがはっきりわかるわね!

ヴィトロックの方が、アイボリーがかった乳白色をしていて、全体的に練りムラのラインが入っているのよ。
ボスコ・マグのもうひとつの特徴は、ボトムが真っ平で、刻印が無いことなのよ。
あ、たしかにバック・スタンプが無い!

前回のカーソンズマグは、「FIRE-KING」とか「MADE IN U.S.A.」とか、アンカーホッキング社の社名やマークが刻印されていたのに。

ボスコマグのフォルムは、ファイヤーキングの「フィルビーマグ」と呼ばれるマグとハンドル(持ち手)やボトム(底面)の特徴がそっくりなのよ。
その「フィルビーマグ」ってやつと、同じ型を使って作られた可能性があるってこと?
うん、断定はできないけど、そんなに的外れな想像でもないと思うわ。

だって、ファイヤーキング・ブランドの最初期に製造された「フィルビーマグ」には、ボトムに刻印がないのよ。

へー、最初期のファイヤーキング製品には、ブランド名の刻印が無かったのね。

ふつうは刻印が年代推定の決め手になるけど、刻印が無いことが逆に決め手になることもあるんだ!?

そのフィルビーマグが1940年代に製造されているから、このボスコマグも1940年代に作られたものと推定されているのよ。
なるほどねー!

1940年代と言うと、ボスコ社が熊をマスコットキャラクターにした年代とも重なるし、ヴィトロックがさかんに作られていた時代ともぴったり重なるのね。

なんだか探偵になった気分だわ!

1945年が終戦の年だから、1940年代前半はまだ戦時中だったのよね。

日本は1952年までGHQ占領下だったし……

ああ、日本はちょうど、映画『火垂るの墓』の時代だったのか……

その頃、アメリカの子供たちは、牛乳やアイスクリームにチョコレート・シロップをかけて食べてたんだなぁ……

考えてみると、このマグが作られてから、80年近く経つのよね。

そんなに古いものとは思えないほど、キレイに残っていておどろき!

もうすぐヴィンテージを越えて、アンティークの仲間入りだね。

考古学と言うと大げさかもしれないけど、こうした古い物は、過ぎ去った時代を今に伝えてくれるから、大切にしていきたいわね。
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登場人物紹介

七里香(ななりか)


デザイナーズトイを集めている。

アート全般に興味があるが、特にロウブロウアートが好き。

「ぎゃらりい熊四手」のオーナーの孫。

杏子(あんず)


ファイヤーキングを中心に1930~1980年代のアメリカン・ヴィンテージグラスウェアを集めている。

「ぎゃらりい熊四手」のカフェ担当。

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