第5話 Crusty Dunny by Frank Kozik

文字数 2,594文字

1月某日、ぎゃらりい熊四手。

【本日のお品書き】

kidrobot Holiday Dunny 2011 by Frank Kozik より

Crusty Dunny(レギュラー)

Crusty Dunny(チェイス)

じゃーん、今日のダニー!!
わあ、ニンジン鼻のスノーマンがシルクハットをかぶって、無精ヒゲにくわえタバコ、酒ビンまで持っている!
Crusty Dunny(気難しいダニー)と名付けられた、スノーマン・ダニーよ!
ああ、英語でcrusty「気難しい、無愛想な」という意味の形容詞よね。
キッドロボットが2011年にリリースした、クリスマス限定3インチダニーなの。
キッドロボット社のダニー・シリーズは、共通のウサギ型の素体にアーティストが独自のデザインを施したビニール製のフィギュア。ブラインドボックス入り。
からだが溶けて、頭だけになってしまったスノーマンが、今回のチェイス・デザイン!

混入率は6分の1くらいだと思うわ。

前回は、TADOがデザインした2009年のクリスマス限定ダニーだったわね。

今回はだれがデザインしたの?

今回のスノーマン・ダニーをデザインしたのは、

ロウブロウ・アート界の巨匠Frank Kozik(フランク・コジック)さん!!

lowbrow「低俗な、無教養な」という侮蔑的な意味で使われる言葉でしょ?

それなのに「巨匠」って言うの、なんか違和感があるわね。

まあ、「巨匠」や「重鎮」なんて言うと、ファイン・アート界の画壇みたいよね。

そうそう、ロウブロウはハイブロウに対抗する概念なんだから。

カウンター・カルチャーに「巨匠」という言い方は似つかわしくないわよ。

それはそうだけど、ロウブロウ・アートも登場から50年以上経つのよ。
ロウブロウ・アート(lowbrow art)は、1960年代後半にカリフォルニア州ロサンゼルスで生まれたアンダーグラウンドの芸術運動。

漫画、パンク音楽、ティキ(ポリネシア)、ホットロッド(改造車)、グラフィティ、ストリートなどに文化的ルーツを持つ大衆的な芸術運動である。

ポップ・シュルレアリスムとも呼ばれる。

70年代、80年代から活動しているアーティストは、長年にわたる貢献によって「巨匠」と冠されても、おかしくないんじゃない?

なるほどー。

今回のフランク・コジックさんは、そんなアンダーグラウンド派の重鎮であり、ロウブロウ・アート界の巨匠と評される存在なのね。

フランク・コジック(1962年 - 2023年)

1962年にスペインのマドリードで生まれ、15歳の時にカリフォルニア州サクラメントへ移る。高校中退後、18歳で空軍に入隊し、テキサス州オースティンに駐屯。

退役後、オースティンのナイトクラブでドアマンとして働きながら、1980年代初頭から地元のバンドのチラシやポスターの制作を始め、アンダーグラウンド・アーティストとして注目を集める。


1993年、ローリングストーン誌がコジックの作品を3ページにわたって特集し、彼を「新たなロック・ポスターの天才」と評価した。

同年、サンフランシスコに移り、小さな印刷所を開業し、独立系レコード・レーベル"Man's Ruin Records"を設立した。

そこでセックス・ピストルズやクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジなど、パンクやオルタナティブを中心に200以上のレコードをリリースした。


2001年にレーベルを終了し、アートとトイのデザインに専念。

コジックの代名詞と言える"Smorkin' Labbit"のキャラクターが、2003年にキッドロボット社によってビニール製トイとなり、アート・トイ・ムーブメントの先駆者となる。

2014年にキッドロボット社のクリエイティブ・ディレクターに就任し、業績が悪化していた同社の立て直しに貢献する。

コジックがデザインを手掛けたフィギュアは500を超えた。

2023年5月に61歳で死去。

コジックさんの母親はスペイン人、父親はアメリカ軍人。

幼少期を過ごしたスペインのフランコ政権時代のイメージが、彼の芸術に影響を与えたと言われているわ。

絵は独学で学んだのね!?
そう、「ロウブロウ」という言葉通り、アカデミックな美術教育を受けていないアーティストなのよ。
セックス・ピストルズは名前を知ってるよ!

『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するスタンドの元ネタのひとつだよね。

そのほかにも有名どころでは、グリーン・デイ、ニルヴァーナ、オフスプリング、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、パール・ジャム、サウンドガーデンなどのポスターを手がけたそうよ。
オフスプリングが1998年にリリースした『AMERICANA』のアルバムジャケットを手がけたのも、コジックさんなのよ!
うえ、なにこのでっかい虫!?

男の子が巨大なスナノミ(砂蚤)を平然と抱えて、楽しそうにブランコで遊んでいる絵ね。

かわいい男の子とでっかいスナノミのかもし出す異界感がすごい……

ブラック・ユーモアと言えばいいのか、悪い夢を見ているようだわ。

この絵を見ると、ロウブロウ・アートがポップ・シュルレアリスムと呼ばれるのも納得よね。
コジックさんはロックのポスター・アートから始めて、しだいにトイのデザインも手掛けるようになったのね。

コジックさんがデザインしたアート・トイのセットが、2008年にクリスティーズで3000ドルから4000ドルもの値がつけられたのよ!

デザイナーズトイにオークションでそんな値段が!?

コジックさん自身がアート・トイ・ムーブメントの先駆者となって、世界中の若手アーティストたちにメジャー・デビューする道を拓いたと言えるわね!
そんなレジェンドが、昨年お亡くなりになったのね……
一般的には、もっと長生きすれば……と言うところだけどね。

アンダーグラウンド文化出身のアーティストとしては、じゅうぶん長生きした方じゃないかなって思うのよ。

たしかに、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスは21歳の若さで亡くなっているわね。
ストリート・アートを代表するアーティストであるシェパード・フェアリーは、コジックさんのことを「パンク・ロック・ウォーホル」と評しているわ!
ポップアートを生み出したアンディ・ウォーホルにたとえているのね。
ウォーホルの作品が死後も色あせないように、コジックさんの作品はこれからもずっと輝きつづけるわよ!
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登場人物紹介

七里香(ななりか)


デザイナーズトイを集めている。

アート全般に興味があるが、特にロウブロウアートが好き。

「ぎゃらりい熊四手」のオーナーの孫。

杏子(あんず)


ファイヤーキングを中心に1930~1980年代のアメリカン・ヴィンテージグラスウェアを集めている。

「ぎゃらりい熊四手」のカフェ担当。

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