第１４話　憎たらしい奴

【愛理姉さんが日本に戻ると入れ違いに】

　サンが今回は一人で自分の誕生日を挟んで韓国にやってくると父から連絡があった。

　今まで通り、父は多くを語らなかった。「元気にしているか？」といつもの言葉に「サンは十日から十六日までいる予定だ」そう電話口で結んだ。

　僕はなにも言わずに電話を切った。仕事が立て込んでいた。忙しくしている間はそのことを忘れていた。今の違和感は誰にも自分が責められない事だ。それは目をつぶって、そのままやり過ごす事も許されていると、いうことだ。

　カヤの外のような気がする。自分の事なのかどうか、わからない。ひどく精神的に苦痛である反面、現実味がないのも事実だ。なんだかそれが良い事なのか悪い事なのか判断をしかねていた。

　気が付けば本物のネコに再会してから幻覚や幻聴がなくなったのがとても寂しかった。その寂しさは今の自分の気持ちの殆どを占めていて、ネコが「恋しかった」と言った気持ちを自分に重ね合わせ、再確認していた。


【十三日金曜日】

　予定していた会議やアポが急になくなり時間が空いた。スケジュール表を見つめながら僕は「まるでお膳立てがあるみたいだ」とくすっと笑った。

　今はタイミングに忠実であることの方がいいだろう。仕事もそうだ。検討し時間をかけ保留にする時期もあるし、タイミングが合えば見切り発車する場合もある。

「憎たらしいサンの顔でも見に行くか、ネコの様子も知りたいし…」

　僕は言い訳がましく父の家に向かった。


【玄関を開けると】

　笑い声が聞こえて来る。母や美宇、父までも実に楽しそうに、日本語とハングルが飛び交っている。

　僕を見つけると、家族の誰もが嬉しそうに歓迎した。僕は「荷物を置いて来る」と自分の部屋に行った。サンは僕の後を着いて来た。部屋にはサンの物と思われる荷物が置いてあった。

「お前のか？」
「韓国ではいつも、ここが僕の部屋」

「ふーん」無愛想な僕に、サンはまったく構わないで

「よく来たじゃん。韓国で会うのは2度目だよね」

「そうだな」と僕は改めてサンを見た。ああ、これが僕の息子なのだ。と人ごとのように思えた。

「元気だったか？」
「僕はね」
「ネコは？」
「ネコとか呼び捨てか」
「じゃあ、お母さんは元気ですか？」
「あんたさんが帰ってから、また病気が悪化して一か月半たつのに今でも殆ど寝たきり」
「あんたさん？あんたさんってなんだ、どんな状態でも、韓国では礼節を守れ」

　サンはふっと笑って

「あんたさん、と言う言葉が気に入らないのか？子供だな」

　また、突っかかって来た。


【父の話では】　

　韓国でもサンはとても良い子だ。乱暴な口をきいて人を蔑んだりしない優等生で通っている。どうも僕だけに生意気な口をきいているみたいだ。こいつどうしてくれよう。と思いながらもネコの体調が悪いというサンの報告が気になった。

「ネコはどこまで悪い」
「どこまでって、あんたさんにわかるのかよ」そう、サンに突っ込まれると言葉に詰まる。
「とにかく、説明してくれ」
「嫌だね。気になるのなら、自分で確かめに日本に行けばいいだろ、あの人が韓国に来ることはないのだから」

「それは…」と答えを探していると