第24話 走り抜けた先

文字数 2,134文字

【バイト先で】

「シルクが実兄に追いかけられていたのを助けた事もあるよ。だけど、詳しい事情を僕は知らない」
「そうか、今はどうしているって?」
「母さんと一緒。昨日、カズヨが知り合いの県警の人に話をしたそうだ」
「うん、わかった。空港でカズヨと連絡とって行動しよう。大丈夫だよ」


【そういえば、実はね】

「韓国に行く前にカズヨに話をして来た」

 サンは僕にカズヨに会った一部始終を、ジェスチャーやカズヨの物まねをしながら、楽しそうに話し始めた。

 『カズヨ~。来週からまた韓国に行くんだ』
 『そうなの、韓国によく行くけど、韓国が好きなのね』
 『好きというか、お爺ちゃん達に会いにいく』
 『えー、叔父さんは今韓国にいるの?』
 『叔父さん?』
 『喜生のお父さん?』
 『ああ、あの人じゃない。お爺ちゃん』
 『誰?』
 『父方の祖父』
 『父方?お父さんはいないじゃない?』
 『誰がいないって言った?』
 『いや、そうじゃなくて、お父さんの話が今までも出てこなかったから、まあ、聞けなかった事もあるけど、お父さんはいるの?』
 『いい年をして馬鹿じゃないの?精子がなければ子供は出来ない』
 『あんた、私だってそれくらいは知っているわよ、憎たらしい子だわね。ねえ、その精子は、ひょっとして韓流の俳優さんなの?』


【口の達者な若者に遊ばれ】

 カズヨは腕を組んでサンを睨みつけ警戒しながら、相変わらずの暴走だ。そのカズヨが腕組するのが面白いと格好を真似て笑うサン。

 僕も「韓流の俳優まで爆走したか…」と、サンと笑った。

「でね『教えて欲しい?僕の父親の名前』って聞いたら、
 『知らなくていい』
 『カズヨの知っている人なのに』
 『誰よ、韓国の知り合いはユウダイだけよ、他に居ないわよ』って言うから『あたり~』って言ったら
 『馬鹿みたい、どうせ、からかっているだけでしょ』と相手にしてくれない。どうしたらいいと思う?」

 サンは僕の顔を覗き込んだ。カズヨは僕の日本名しか知らない。わざとカズヨを混乱させるサンのいたずらなオレンジアイがクリクリと僕の回答を期待して輝く。

「きっとカズヨはすぐにネコに確認しているから、大丈夫だよ」とサンに言い。僕らは頷きあった。サンは嬉しそうだ。

【こいつ、僕の時もそうだった】

 重たい話をすらっと話す。だから誰も本気にしない。これは受け手側の問題が大きいかもしれない。感情を込め慎重に言葉を選びながら暗く話すと真実で、すらっと軽い話は虚偽もしくはいたずらと分類する傾向があるからだ。

 昨日、聞いたサンの本心、心の叫びを知らなければ、聞き流してしまうだろ。しかし、咲枝ママが言うようにつらい話も気持ちの持ちよう。たしかに軽くして話せば苦しくない。

 僕はこれから、彼らの話を飛ばさずに聞くように心かけよう。冗談だと思わずに、聞けばトラブルは少なくなるはずだ。サンは、幼い子のように息もつかず話し続ける。


【それからね】

「朝から美宇とおばあちゃんが何枚も重ね着して、これは気持ちいいわと話をしていた」

 サンはその様子を手ぶりや身振りで子供みたいに真似て道化た。その様子を見ながら、サンは長い間きっと一人で怖かっただろう。と思った。少しは気持ちが落ち着いたかな?僕はあらためて父親の役割を考えた。

 これも悪くない気分だ。

「お前の適応能力はすごいから、あの二人の事は任せたよ」とサンの背中をポンポンと叩くと、サンは恥ずかしそうに笑った。


【韓国に戻ると】




 独り暮らしの寂しい部屋で、サンの笑顔を思いだしながら、改めてカズヨからの手紙を読み始めた。

 初めて読んだときは、あんなに苦しくてあふれる涙をふくことも忘れていたのに、今はネコとサンと一緒に走り抜けた先が見たくなっていた。


 end


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【群雲の光芒|ウテとネコの物語|4ジャンルの組み話】

この物語は「青春」「ミステリー」「人間ドラマ」「恋愛」のジャンルで構成した組話になっています。
1「青春」   オレンジアイ 
https://novel.daysneo.com/works/19431f8e8c2700f98eea1111ad48d5fb.html
2「ミステリー」迷子の七日間 
https://novel.daysneo.com/works/06bbacc93ab953092d2311270720e2af.html
3「人間ドラマ」韓国にて
https://novel.daysneo.com/works/c418d0dcb74ee6162b7142c259198821.html
4「恋愛」   軍港がみえる街 
https://novel.daysneo.com/works/ee7b3beb66b33b238ca9c98e1773cd19.html
全ストーリーの粗筋は4「恋愛」軍港がみえる街の最終ページに掲載されています。
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この物語はフィクションです。
実在する人物、地名、団体等とは一切関係がありません。
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登場人物紹介

■僕/ウテ■…韓国名:김우태  金 佑泰(キム・ウテ)|名前の由来:おおらかに助ける

日本名:金高 佑泰(カネタカ ユウダイ)33才 身長185cm


韓国からやって来たウテ(僕)が日本に馴染めなかった中学2年生の時に、横須賀駅で喜生が起こした事故がきっかけで喜生と出会う。中学卒業と同時に帰国し、17年ぶりに喜生と再会する。

■喜生(きお)/ネコ■…晴川 喜生(はるかわ きお)32才 身長152cm

 

10才の時に犯罪に巻き込まれ、強度の対人(男性)恐怖症 PTSD。キジ猫のように敏感で怖がり人を信用しない。キム・ウテにネコと呼ばれる。オレンジアイは母方譲り

■咲枝ママ■…晴川 咲枝(はるかわ さきえ)喜生の母親。身長160cm


障害のある娘を力強く援護する。

■美宇■…韓国名:김미우|金 美宇(キム・ミウ)|名前の由来:愛くるしく正しい人

日本名:金高 美宇(かねたか みう)ウテの妹 26才 身長168cm 


ウテと共に日本人の喜生と過ごし開放的になる。

■愛理姉さん■…韓国名:김애리 金 愛理(キム・エリ)

日本名:金高 愛理(かねたか えり)身長164cm ウテの6才離れた従姉。


国籍の違う恋に悩む。

■カズヨ■…松谷 和代(まつたに かずよ)32才 身長158cm


喜生の小学校からの友人。ウテが初恋。サンを可愛がっている。

■母■…韓国名:남복자 南 匐子(ナム・ボクジャ) 

日本名:金高 福子(かねたか ふくこ)ウテの母親 身長165cm


病気の喜生に暖かい気持ちで接する。

■父■…韓国名:김종우 金 鐘佑(キム・ジョンウン)

日本名:金高 鐘佑(かねたか かねすけ) ウテの父親 身長178cm


息子を大きな包容力で暖かく根気よく見守る。大きな人

■小介先生■…月田 小介(つきだ こすけ)身長167cm 代々地元の開業医。


咲枝ママの幼馴染。喜生の主治医。

■玄馬さん■…月田 玄馬(つきだ はるま)身長170cm


小介先生の息子、愛理姉さんの同級生で彼氏。

■悟志さん■…大園 悟志 (おおぞの さとし)喜生の数軒先に住む。16才 身長173cm

■悟志の兄■…喜生の数軒先に住む。19才 身長172cm 


喜生に付きまとっている。喜生の父親の晴川幸治と同じ勤務先

■叔父さん■…韓国名:김종하:金 鐘河(キム・ジョンハ)

日本名:金高 鐘河(かねたかしょうか)愛理の父 ウテの叔父 身長177㎝


日本で苦労して事業を立ち上げた。日本人が嫌い。玄馬との交際を認めない。

■叔母さん■ …韓国名:오미숙:吳 味叔(オ・ミスク)

日本名:金高 叔子(かねたか としこ)愛理の母 ウテの叔母 身長166㎝

■喜生の父さん■…晴川 幸治(はるかわ こうじ)喜生の父親。身長175cm


事件に巻き込まれた娘に複雑な思いを持っている。

■シルク■…ルア(rua)。17才 身長170cm


アルバイト先がサンと一緒のベトナム国籍 日本に滞在中

■サン■…きおと同棲している若い男。身長 178cm


父親に無視されていると思っている。人生は半端ではなく、突き抜けるのが一番と考えるクールを装う高校生。

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