Finale : On the New way

文字数 1,047文字

「これにソロモン七十二柱が全部解説されてるけど……お前、サタニズム系のブラックに興味あったっけ?」
 星野は一冊の本を差し出しながら、訝しげに天津を見た。
「いや……崇拝じゃなくて、ネタ探したいだけだから」
「ネタ探し?」
「そう、これ、書いて欲しいから」
 天津は、雑に手書きされた、小説のプロットと思しきメモを星野に見せる。
「中世風で、悪魔が出て来るお話……なんか、作れそうな、気がしたから」
「……グリム童話の原作とか、中世の拷問図鑑みたいな物も持ってきた方がいいか?」
 その内容に眉を顰めながら、星野は呟く。
「いや、グリム童話だけでいいと思うんだけど」
「そうか? しかし、お前も悪辣な事するな」
 星野は肩を竦めた。
「え?」
「発想のアイディアを外注してるに等しいんだぜ?」
「大丈夫、彼女は僕の音楽を聞きながら作業してる」
「って、自分のアイディアに基づいた曲を聞いて何か作れるのか?」
「きっと、僕の音楽と、彼女の解釈は噛み合わないから、別物になる」
「それ……いいのか?」
「どっちの作品も、作品として成立すればいいでしょ」
 首を傾げる星野をよそに、天津はコーヒーに口を付ける。
 そんな天津に星野は深い溜息を吐き、クッキーをひとつ口に入れる。
「ん? いつものクッキーじゃねぇな」
「業務用が品切れでね」
 甘みの無いホットケーキのランチセットを手に、店主がやってきた。
「手伝いを一人頼んだから、暫くは自家製のクッキーを出そうかと思って」
「手伝い?」
「若い女の子を紹介してもらったんでね」
 ランチセットを受け取りながら、星野は訝しげにカウンターへと視線を向ける。
「別にバイトは要らないって、ついこの前言ってなかったっけ?」
「ただのウェイトレスや皿洗いなら要らないって事だよ」
「って事は、パティシエか?」
「そんな専業の人を雇えるほどの余裕はないよ。ただ……いいアイディアを色々と聞かせてくれそうだったんでね。客の取り合いをするなら、思いつきこそ勝負どころだろう?」
「確かに……この辺は店が多いからな……ん?」
 星野はランチプレートに添えられたウインナーに目を止める。
「うさぎ?」
「あぁ、バイトの子が教えてくれたんだよ」
「……お子様ランチならともかく、これは」
「君にだけサービスだよ。それじゃ、ごゆっくり」
 もう一度そのうさぎを見て、星野は店主の背中を見遣る。
 そして、目の前の天津を見た。
「もしかして、おまえ」
「飼い主の責任、かな」
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