四の巻 離島へ

文字数 2,380文字


    [四]


 2週間後の平日の夜、幸太郎はスーツケースと共に、東京の港からフェリーに乗り、1人寂しく八王島へと向かった。
 幸太郎曰わく、イべント自体は2日後らしいが、スタッフとやらは先に現地入りして、準備をしないといけないそうじゃ。
 ちなみに、イべント会社からは、羽田空港で集合との連絡を受けていたが、幸太郎は不幸体質なのでそれを辞退した。
 理由は勿論、飛行機の機体トラブルを懸念しての事じゃった。
 防衛大学にいた頃も、これが理由でスパイを疑われておったのじゃからのう。
 幸太郎が戦闘機やその他の機器に近付くと、なぜかトラブルが発生するのじゃよ。
 最初のうちは教官達も、ただの機体トラブルと考えておったようじゃが、それが何十回も起こると流石に疑われる。
 幸太郎はそれが故に戦闘機に乗ることを諦めねばならんかったのじゃ。
 不幸な話じゃのう。
 まぁそういった理由から、幸太郎はフェリーでの移動を選択したのじゃが、10時間以上掛かる夜の便しかないので、それを嘆いておったわ。
 船にトラブルが起こらぬといいがのう。
 じゃが、たぶん大丈夫じゃろう。
 操舵室に近付かず、寝室に籠もってさえいればの、ほほほほ。

 ―― で、11時間後じゃ ――
 
 そんなこんなで、無事、幸太郎は目的地の八王島に到着した。
 幸太郎が寝ている間、付近の火災報知器が誤作動を起こしたりして、一時騒然としたが、それだけじゃった。
 不幸中の幸いという奴じゃな。
 で、着いたら朝というわけなのじゃよ。
 よくできた航路じゃのう。
 乗ったら寝とれという事のようじゃ。
 さて、それはともかく、今日も清々しいほどの青空であった。
 穏やかな大海原も壮大に広がっておるわ。
 但し、少々海の風が強いのか、幸太郎もそれには渋い表情であった。
 髪はサッパリと短いので靡くことはないが、目にゴミが入ったのだろう。
 涙目になっておったわ。
 生きている者は難儀じゃて。
 ちなみに今日の幸太郎は、長袖の服とカーゴパンツとかいうモノを着る出で立ちであった。
 なんでも、イべント会社から指定された服装らしい。
 動きやすそうな格好であった。
 幸太郎の学生時代も、よくこんな衣服を着ておったわ。
 こ奴によく似合う服装じゃ。

「幸太郎よ、これからどうするのじゃ?」

 付近に誰もおらぬので、我は幸太郎に声を掛けた。
 そこで幸太郎は腕時計に目をやった。

「たぶん、俺の方が先に着いたな。とりあえず、空港にでも向かうよ。北条さんとそこで合流する事になってるし」――

 その後、幸太郎はタクシーとやらで八王島空港へと向かった。
 但し、その道中も不幸の力は容赦なかった。
 タクシーは全ての信号に運悪く引っかかり、尚且つ、風で突如飛んできた看板が不運にも車に当たるなどして、災難続きじゃったのじゃ。
 恐るべき不幸の力である。
 じゃが、空港にはなんとか到着した。
 タクシー運転手は苦笑いで申し訳なさそうに幸太郎を送り届けてくれたが、こっちの方が悪い気がした。すまぬのう。
 さて、そんなこんなで、小さな八王島空港に到着した幸太郎じゃが、後は中で待つだけじゃ。
 幸太郎は空港内の椅子に腰掛け、発着を知らせる電光掲示板を眺めた。
 それから、奥に続く通路に視線を向け、暫し待ったのである。
 どうやらここから来るのじゃろう。
 空港内は割と旅行客がいた。
 土産を買ったりしておる者も、そこそこ見受けられる。
 じゃが、付近には、妙に柄の悪い男達も数人いたので、幸太郎はその者達を気にしているようじゃった。

「さてと……そろそろ到着だが……なんだろうねぇ、アイツ等……旅行に来たわけじゃなさそうだが」

 幸太郎はそう言って、その男達を見ていた。
 刺青のようなモノを入れており、厳つい感じの輩じゃが、さてさて……何もおからねばよいがのう。
 それから暫くすると、目的の人物が現れた。
 幸太郎を面接した女子(おなご)じゃ。今日もスーツ姿であった。
 その傍らには4人の男女がいた。
 皆若い。恐らく、幸太郎とそれほど年は変わるまい。

「おはようございます、北条さん」

「あ、おはようございます、三上さん。先に着いていたのですね。今日からよろしくお願いします。それと……」

 女はそこで言葉を切り、傍らの男女に視線を向けた。

「こちらの2人は私の部下で、こちらが三上さんと同じ助手の方達です」

「そうなのですね。私は三上と申します。今日からよろしくお願いします」

 幸太郎の挨拶を皮切りに4人は自己紹介を始めた。

「私はチーフの部下で、松川と申します。よろしくお願いします」

 こ奴は幸太郎と同じくらいの年の頃じゃ。
 スーツ姿で眼鏡を掛け、痩せ形で中背の真面目な若者じゃな。

「私は手島です。松川と同じで、チーフの部下になります。よろしくお願いします」

 こ奴もスーツ姿じゃ。
 生き生きとした活発な女子で、年はさっきの男と同じくらいだろう。
 どうやらイべント会社の者達は、全員スーツを着る事になっておるようじゃ。

「俺は春日井だ。貴方と同じで、今回のイべント助手をやらせてもらう者だ。よろしくな、三上さん」

 こ奴は筋骨隆々で丸坊主の男じゃ。
 上背は幸太郎より、やや低いくらいじゃな。
 じゃが、年は幸太郎よりも上じゃろう。
 格闘家のような体形をしとるので、かなりの手練れかものう。

「私は北島と言います。こういうイべントは初めてですが、よろしくお願いしますね」

 こ奴は、かなり若い女子じゃな。
 この中で一番若いじゃろう。
 肌がピチピチしとるわ。
 顔も可愛い顔をしとる。
 髪は短いので少年のような見た目じゃが、その内、男を誑かしそうじゃな。ほほほほ。
 ちなみに助手の2人は、幸太郎と同様の服装であった。

「さて、それじゃあ自己紹介も終わった事ですし、まずは現地に向かうとしましょうか」――

 さてさて……これから何が起きるのかの。 
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