届け、届け

文字数 1,316文字

 「こんにちは赤ちゃん訪問※」の研修で、とある心療科のお医者様がお話してくださいました。(前述のお話も)
「正攻法では改善に至らないケースを診るんですけどね。どんな手を使っても、私たちは子どもを守りたいわけです。だから、説教したい気持ちにはフタをして、まず保護者の良いとこ探しをするんです」
 毅然と微笑み立つその女性は後光が差すようでした。

 もう5,6年前になりますが、忘れられない研修のひとつです。
 そして、経験を積んでみてしみじみと。
 これはどんな場合でも、耳をこちらに向けてもらうためには、よい方法だなと思っています。

 そうは言っても。
「暴れている子どもにはどうするのかね。”元気がよくてえらーい”とでも言うのかね」
 とお思いになりませんか?
 そのとおり!
 わめく殴るける、噛みつきひっかいて暴れている子には、どんな言葉も届きません。
 「痛い」とか「やめなさい」も、煽り言葉にしかならない。
 なので、涼しい顔でスルーしながら、捕獲し続けるしかないのです。
(全力で羽交い絞めにしながら、「はいはいはいはい」とあやせるようになりましたよ)
 そういう子だって、キッズルームに来てから帰るまで、始終湯気を噴いているわけではありません。
 ちょっと落ち着いているときに、「お、本を貸してあげたんだ?優しいじゃん」「片付け手伝ってくれたの?うわぁ、気が利くねえ」など。
 なんでもいい。
 当たり前のことでいい。
 ほめる。
 そうすると、暴れているときに「あのときは優しくできたよね」と言うことができて、本人もその成功体験を思い出すようです。
 毎回ではないし、効かないこともあるけれど。
 クールダウンできる可能性があるならば、やってみる価値はある。

 だから、ほめます。
「宿題?おぉ~、字がきれいだね」
「きれーじゃねーよ。こんなんヤなんだよっ」
「嫌なのに取り組んでるの、えらいじゃん!」
「だって怒られんのヤだもん。ちょっと向こうに行って!見られんのヤだから」
「まじかー。邪魔してごめんね。でも、やっぱえらいぞ!」

 イヤイヤ期かな?
 もしくは、もう反抗期?
 と思うくらい、「イヤ」のオンパレードのときもあります。
 でも、まだ「言葉」は届く。
 ちゃんと届く。
 だから、拒否されてもウザがられても、「ほめ倒し」は続けていこうと思うのです。

 届かなくなってしまってから後悔するようなことは、二度と経験したくないので。

※こんにちは赤ちゃん訪問事業
 正式名称は「乳児家庭全戸訪問事業」。
 生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問し、様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供等を行うとともに、親子の心身の状況や養育環境等の把握や助言を行い、支援が必要な家庭に対しては適切なサービス提供につなげる。このようにして、乳児のいる家庭と地域社会をつなぐ最初の機会とすることにより、乳児家庭の孤立化を防ぎ、乳児の健全な育成環境の確保を図るものである。(厚生労働省HPより)

 訪問員の選び方や、訪問方法は各自治体によりさまざま。
 保健師のみとしている自治体もあるし、「研修を受けた、地域の子育て経験者」まで、幅広いラインナップを取りそろえているところもあります。
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