〈第一部 第八章あらすじ&登場人物紹介〉

文字数 4,396文字





===第一部 第八章 あらすじ===



 メイシアの父、藤咲コウレンが無事に救出された。ならば、彼女は実家に帰るか、娼婦となるか――である。そのどちらも認めたくないルイフォンは、父イーレオに交渉を持ちかけた。

 自分の功績の褒美として、彼女の自由を求めたルイフォンに、イーレオは「藤咲家が、ふたりの仲を認めれば応じる」と答える。そんな条件は楽勝……と思われたのだが、コウレンは奇妙な言動をとった。



 コウレンの違和感に悩む一同。そんな中、メイシアの異母弟ハオリュウのもとに、警察隊の緋扇シュアンが訪ねてきた。〈(ムスカ)〉の陰謀によって自ら射殺した先輩の名誉を守るため、貴族(シャトーア)のハオリュウの書状が必要だったのだ。

 シュアンからの情報により、ハオリュウは父コウレンが、ライバルである厳月家の当主の〈影〉にされてしまったことに気づく。そして、異母姉メイシアを傷つけたくないとの思いから〈影〉と密約を交わし、〈影〉のコウレンに「ルイフォンとメイシアの仲を認める」と言わせた。



 用済みとなった〈影〉を、ハオリュウは『父の仇として』殺害しようとした。しかし、返り討ちに遭い、絶体絶命のところにメイシアが現れる。彼女もまた、父が〈影〉にされていることに気づき駆けつけたのだ。そして、ハオリュウを助けるため、人質となる。

 銃声を聞いて駆けつけたルイフォンは、囚われたメイシアを見て〈影〉に毒の刃を投げる。〈影〉にされてしまった人は、もとには戻らないと聞いていたからだ。

 だが、死の間際で、コウレンが戻った。メイシアとハオリュウは『奇跡』と思い、大切な父との最期の別れをする。しかし、救うために殺したはずのルイフォンにとっては、最愛の人の父親を殺したという『罪』となった。



 罪の意識に耐えられなくなったルイフォンは屋敷を出た。イーレオにメイシアの解放を乞い、彼女の幸せを望み、彼女に会うことなく姿を消した。

 そんなルイフォンを、メイシアは追いかけ、告げる。

「出逢ったときと同じく『私』を差し出します。そして、私が欲しいものは『ルイフォン』。あなたの抱えている痛みも、後悔も、因縁も、罪も、傷も、何もかも全部、含めて『ルイフォン』です」――と。

 理性では別れるべきだと思いながらも抗うことなどできず、ルイフォンは彼女を抱きしめ「一生、大切にする」と宣言した。



 ハオリュウに貸していた銃を返してもらうため、鷹刀一族の屋敷を訪れたシュアンは、ミンウェイから事件の結末を知らされた。ミンウェイの愚かな優しさに、苛つきながらも癒やされるシュアン。

 その後、ハオリュウと面会したシュアンは、孤独なハオリュウに庇護欲を感じ、また共に〈(ムスカ)〉を仇とすることから、ハオリュウと盟約を交わした。



 駆け落ち同然で屋敷を出てきたルイフォンとメイシアだが、皆のところに戻ることにした。誰に反対されているわけでもないのだから。むしろ皆に祝福されるべきだと言って。

 勝手すぎると怒ったリュイセンを説得し、ふたりは無事、戻ってきた。

 そしてメイシアは、ルイフォンと共にいるため、自由になるため、表向きは事故で死んだことになった。



 ルイフォンとメイシアの出逢いは、仕組まれたものだと〈天使〉のホンシュアが言っていた。そのことを詳しく聞くため、ホンシュアに会いに行こうと約束したふたりだが、ホンシュアは熱暴走を起こして死亡していた。

 また、ルイフォンたちに協力したせいで、斑目一族での立場が危うくなったタオロンは、娘のファンルゥを守るために、〈(ムスカ)〉の駒となることを承諾した。



 事件のショックで気が触れてしまったメイシアの継母のところへ、メイシアとルイフォンはお見舞いに行く。継母の心が戻ってきたのか否か、それは分からぬが、彼らは継母から祝福の言葉を受けた――。





===登場人物===



鷹刀ルイフォン

 凶賊(ダリジィン)鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。

 母親のキリファから、〈(フェレース)〉というクラッカーの通称を継いでいる。

 端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。

 長髪を後ろで一本に編み、毛先を金の鈴と青い飾り紐で留めている。

 凶賊(ダリジィン)の一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈(フェレース)〉」であることを主張し、認められている。



※「ハッカー」という用語は、「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われていた。

 「クラッカー」には悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。

 よって、本作品では、〈(フェレース)〉を「クラッカー」と表記する。



メイシア

 元・貴族(シャトーア)の藤咲家の娘。十八歳。

 ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。

 箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。

 すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。

 白磁の肌、黒絹の髪の美少女。





[鷹刀一族]

 凶賊(ダリジィン)と呼ばれる、大華王国マフィアの一族。

 実は、秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。



鷹刀イーレオ

 凶賊(ダリジィン)鷹刀一族の総帥。六十五歳。

 若作りで洒落者。



鷹刀エルファン

 イーレオの長子。次期総帥。ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟。

 感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。



鷹刀リュイセン

 エルファンの次男。イーレオの孫。ルイフォンの年上の『甥』。十九歳。

 文句も多いが、やるときはやる男。

『神速の双刀使い』と呼ばれている。

 長男の兄が一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定である。



鷹刀ミンウェイ

 イーレオの孫娘にして、ルイフォンの年上の『姪』。二十代半ばに見える。

 鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。

 緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。

 薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。

 かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。

 父親ヘイシャオ=〈(ムスカ)〉? に溺愛という名の虐待を受けていた。



草薙チャオラウ

 イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。

 無精髭を弄ぶ癖がある。



料理長

 鷹刀一族の屋敷の料理長。

 恰幅の良い初老の男。人柄が体格に出ている。



キリファ

 ルイフォンの母。四年前に謎の集団に首を落とされて死亡。

 天才クラッカー〈(フェレース)〉。

 右足首から下を失っており、歩行は困難だった。

 かつて〈七つの大罪〉に属していたらしい。

 鷹刀一族の屋敷に謎の人工知能〈ベロ〉を遺していた。

 もとエルファンの愛人。エルファンとの間に一女あり。



〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉

 キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。

 ただし、〈スー〉は、まだできていないらしい。

〈ベロ〉は、独自の判断で、「敵を全滅する」というルイフォンの指示を無視した。





[〈七つの大罪〉・他]



〈七つの大罪〉

 現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。



〈悪魔〉

 知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。

〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。代償は体に刻み込まれた『契約』。



〈天使〉

「記憶の書き込み」ができる人体実験体。

 背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。



〈影〉

〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。

 体は元の人物だが、精神が別人となる。



『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの

〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。

 服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令(コード)や、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶(データ)まで、いろいろである。



『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画(プログラム)

(サーペンス)〉が企んでいる計画。

(ムスカ)〉の協力が必要であるらしいのだが、謎に包まれている。

『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『(つる)』。

 つまり、『ふたつの(つる)』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。

『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。

 これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。



(ムスカ)〉 = ヘイシャオ?

〈七つの大罪〉の〈悪魔〉。

 ミンウェイの父で、本名はヘイシャオ。

 イーレオが総帥位を奪わなければ、鷹刀一族の中心にいたはずの人物。

 鷹刀一族を恨んでいる。 

 医者で暗殺者。

 娘のミンウェイを異常な愛情で溺愛している。



ホンシュア = 〈(サーペンス)〉? = 〈天使〉

 メイシアを選び、ルイフォンと引き合わせたと言った謎の女。

〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。

〈天使〉であり、〈(サーペンス)〉と呼ばれる〈悪魔〉の〈影〉でもあった。

 ルイフォンとリュイセンのことを知っていたが、彼らは彼女を知らなかった。



ライシェン

 ホンシュアがルイフォンに向かって呼びかけた名前。

 それ以外は不明。





[藤咲家・他]



藤咲ハオリュウ

 メイシアの異母弟。十二歳。

 父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。

 十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。

 異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。



藤咲コウレン

 メイシア、ハオリュウの父親。厳月家・斑目一族・〈(ムスカ)〉の陰謀により死亡。



藤咲コウレンの妻

 メイシアの継母。ハオリュウの実母。

 心労で正気を失ってしまい、別荘で暮らしていたが、メイシアがお見舞いに行ったあとから徐々に快方に向かっている。



緋扇(ひおうぎ)シュアン

『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。

 ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。

 凶賊(ダリジィン)の抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊(ダリジィン)を恨んでいる。

 凶賊(ダリジィン)を殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。

 敬愛する先輩が〈(ムスカ)〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。

 似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。

 



[繁華街]



シャオリエ

 高級娼館の女主人。年齢不詳(若くはないはず)

 外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。

 元鷹刀一族であり、イーレオを育てた、と言っている。

 実は〈影〉であり、体は別人。そのことをイーレオが気にしないようにと、一族を離れた。



トンツァイ

 繁華街の情報屋。

 痩せぎすの男。





===大華王国について===



 黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。

 身分制度は、王族(フェイラ)貴族(シャトーア)平民(バイスア)自由民(スーイラ)に分かれている。

 また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊(ダリジィン)と呼ぶ。彼らは平民(バイスア)自由民(スーイラ)であるが、貴族(シャトーア)並みの勢力を誇っている。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鷹刀(たかとう)ルイフォン

 凶賊鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。

 母から、〈猫(フェレース)〉というクラッカーの通称を継いでいる。

 端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。

 長髪を後ろで一本に編み、毛先を金の鈴と青い飾り紐で留めている。

藤咲(ふじさき)メイシア

 貴族の娘。十八歳。

 箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。

 白磁の肌、黒絹の髪の美少女。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み