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文字数 7,227文字

 姿ケ池近辺は湖になっていた。堀も丘も田も、水の底となっていた。底は水中の泥で濁り見えなくなっていた。穏やかな波が、日の光を様々な方向へ反射していた。木々は水面から立っていた。木の枝についている葉は濡れていて、水滴が滴り落ちていた。道は水底に埋まっていた。
 瞬息は、水際で一帯を見ていた。
 隣には付きの村人がいた。村人は食い入るように水面を見つめていた。
「お言葉ですが神主様」村人は、瞬息に目を向けた。
「那由多様が来ないのは、何か理由があるのですか」
「と言うと」
「那由多様の力ならば、すぐに原因が分かるのではないかと」村人は瞬息から目をそらした。「いえ、神主様を疑っている訳ではないですよ」
「計羅の性格が性格だからな、迂闊に足を踏み込むかも知れん。誰かが子守をしないといかん」
「それは、まあそうですが」
「那由多の話によれば、夕立でもない限り当面雨は降らないそうだ」
「では、暫くすれば水は引くと」
「引いたら引いたで、相当な土砂を運んでいるはずだ。元に戻るには数年かかろう」
「そうなれば、この土地を手放すしかなくなりますね」村人は渋い表情をした。
「その件は六徳と話さなければならん」瞬息は唸った。「今までやってきて失敗しているのだ、話を聞かない訳にはいくまい」
 瞬息は道を辿り、ほとりに近づいた。道は水中に続いていた。
 瞬息は対面を目で探した。池の対面は見えなかった。
「あの、何かあるのですか」
「この先がどうなっているのか見たくてな」
「先と言うと大宮行きの街道ですか」
「そうだ」
「何故、そんな所に行くのです」
「街道に影響があれば、物資が途絶える。何かあった場合、そこも直さなければならなくなる」
「村の負担で、ですか」
「大宮もここも、同じ藩だ。直すついでに池を造成する資金が降りるかもしれん。街道に行こうか」
「神主様、危険ですって」
「危険でも行くしかなかろう」
 瞬息はほとりを辿っていった。
 道はなく、瞬息は草を踏みつぶす様に歩いた。周辺は大人の膝丈程の草が生えていた。草は葉の間や上に水滴を蓄えていた。木々は枝から生える青く広い葉には露が乗っていて、光を受けて輝いていた。
 村人は、瞬息の後をついて行った。
 増水した小川に出た。水面に草や木が浮かび、流れていた。
 時に草が足に絡みついた。瞬息は足を振って、足に絡みついた草を払った。
 徐々に日が昇り、気温も上がっていった。草についている露と土の水気が蒸発し、瞬息と農民は蒸し暑さを覚えた。
 瞬息と農民は街道に出た。 
 街道は地面は濡れていたものの、足跡は残っていなかった。分かれ目には行き先を示した石の道標があった。分かれ目の先は増水した川で埋まっていた。脇には、くるぶし程の丈の草がまばらに生えていた。
 瞬息は街道から離れた川のほとりに向かった。
 川の水は増水していた。橋はなく、向こう岸と手前側に粗末な作りの小屋があった。旅人達は川の縁に立ち、様子を見ていた。増水した川を渡る人間はいなかった。
 瞬息は小屋に近づき、戸を叩いた。何も反応がなかった。
 村人は、瞬息の隣に向かった。
 旅人の一人が、瞬息に近づいた。
「神職さんよ、さっき俺も呼んだんだけどよ。人足はいねえみたいなんだ」
「いないとは」
「雨が続いたので、避難したのかも知れねえな」村人は戸を叩いた。何も反応はない。
「普通は、そうするか」瞬息は腰に吊り下げている矢立と覚書を手に取った。覚書を開いて片手で押さえ、矢立から筆を取り出した。筆の毛全体は黒かった。瞬息は筆を墨壺に付け、覚書に書き出した。
「芦ヶ窪まで近いと言えば近いが、あそこは山越えの拠点で宿はないと聞いている」瞬息は書き終えると筆を矢立にしまい、覚書と矢立を腰に吊り下げた。
「神主様。こいつを渡ろうなんて、言いださないでしょうね」
「まさか、私にも無理かどうかの判断位出来る。ここで引き返すとしよう」瞬息は踵を返した。
 川に立っている旅人達の中にいる禰摩は、引き返した瞬息の姿に気づき、駆けつけてきた。「あの、すみません。神職の方ですか」
 瞬息と村人は、禰摩の方を向いた。
 禰摩は瞬息と村人の前に立っていた。禰摩は菅笠を被り、埃よけの衣を着ていた。衣の下に見える着物は褪せた朱色で柄はなく、草鞋や足袋は泥で汚れていた。
「女が一人で旅とは、珍しいな」
 禰摩は自分の胸に手を当てた。「私はお父上が病に倒れたので、名主様から許可を貰い、大宮へ参拝に行く途中でした」
「一人で大宮に向かう所だったのか」
「雨が止んだのを期に芦ヶ窪を越えて来たのですが、こんな状態とは知らず」禰摩は川を見た。
「私達も先に行くのは無理なので今、引き返す所だ」
「姿ケ池ですか」
「水不足対策に作っている溜池だ。雨が降ったので、神主様と一緒に周辺がどうなったか調べに来た」
「では、近くの方なのですか」
「近いと言えば近い。少なくとも芦ヶ窪よりは」
 禰摩は胸元で両手を組み、瞬息に近づいた。
「神職様、差し出がましいのですがお願いをしていいですか」
「何を突然」瞬息は、禰摩の言葉に思わず引き下がった。
「水が引くまでで構いません、神社か寺に泊めて貰えませんか」禰摩は目に涙を浮かべた。「無理を承知なのは分かっています。雨風さえしのげればよいのです、どうかお助け下さい」
「泊まる場所なら引き返せばいいだろ」
「そうなのですが、その」
「宿賃が尽きたか」
「いえ。宿は芦ヶ窪を越えた先ですから、余りに遠すぎます。近くなら、水が引いたとすぐ知らせが入り動きやすくなると思いまして」
「確かに、遠ければ正確な話は入らんからな」 瞬息は村人の方を向いた。「止むをえまい、連れていこう」
「泊めてくれるのですか」
「拝殿に泊まると良い。但し粗末な建物だ、本当に雨風がしのげるだけだ」
「あ、ありがとうございます」禰摩は、瞬息に深々と礼をした。
「神主様、いいのですか。名主様が何と言うか分かった物じゃない」
「私が話をつける」瞬息は村人を諭し、禰摩の方を向いた。「して、名前は」
「私は禰摩と言います」
「では禰摩と言ったか、ついて来い」
「神社に戻るのですか」
「さほどかかる遠回りではない。着替えも必要だ」
「名主様の所に行くのが遅れやしませんか」
「確かに、どちらも重要だ」瞬息は村人の方を向いた。「君は六徳殿の所に向かい、禰摩と名乗る旅人を神社に案内していると伝えてくれ」
「神主様はどうするのですか」
「話した通り、神社に向かう。そこで彼女を置いて着替えてから、六徳の所に向かう」
「もう解散しているかも知れません」
「そうなら仕方あるまい」瞬息は禰摩の方を向いた。「道なき所を進む故歩きにくく、我が身で精一杯故に補助も出来ん。それでもついて来るか」
「元より一人で出立する以上、覚悟の上です」禰摩は頷いた。
「では、行こう」瞬息は踵を返し、川沿いに来た道を戻った。
 村人と禰摩は、瞬息の後をついて行った。
 街道から外れ、茂みを通って行った。
 瞬息と村人は並んで草を踏みしめながら歩いた。禰摩は二人の後につき、前の二人が踏んだ草の上を踏み付けて歩いていた。濡れた草の露が足を濡らした。
 草の茂る区域を抜け、川から離れてあぜ道に入った。田の水はあぜ道まであふれていた。水面には木の枝と草の葉が浮かんでいた。
 瞬息と村人、禰摩は濡れないようあぜ道の中央を進んでいた。行きに比べて乾いていた為に歩きやすくなっていた。禰摩は足を振り、草鞋に付いた泥を払いながら歩いた。
「酷い有様ですね」
「降っても、水がすぐ引いちまう。最近は特に酷くてな」
「天気が良ければまずまずだが、獲れない時は獲れない。今は獲れない時が続いているだけに過ぎない」
「続いているだけって、そんな言い方はどうかと思います」
「続いていると言うのは、終わりが見えないのと同じだ。その終わりを求める為に姿ケ池を造成した。結果は全て裏目に出てしまったがな」
 禰摩は池と化した田を見つめながら、瞬息と村人の後をついて行った。
 分かれ道に着いた。どちらも、二人の人間が歩ける程度の幅だった。所々に水たまりがあった。水たまりは光を反射して輝いていた。
 村人は瞬息に軽く頭を下げた。「では、ここで別れます」村人は瞬息と別れた。
「神社はここをまっすぐ行った先の丘の上だ」瞬息は、村人と異なるあぜ道を歩いて行った。
 禰摩は、瞬息の後をついて行った。
 あぜ道を抜け、草木が茂る丘が見えた。桜の樹は並木として石の階段の脇に植えてあった。葉は露で塗れていた。石の階段の先に、石の鳥居が立っていた。
「ここが、神職様の神社ですか」
 瞬息は何も返さずに階段の端に向かい、踏みしめるように昇って行った。
 禰摩は、瞬息が昇っている階段と先を見つめた。
 瞬息は階段を登り切り、鳥居をくぐっていた。
 禰摩は意を決して頷き、石の階段を重々しい足取りで昇っていった。
 石の階段は端の苔生している部分は濡れていたものの、中央は乾いていた。
 禰摩は階段を昇り切り、鳥居の前に来ると、鳥居に頭を下げてくぐった。
 鳥居をくぐった先に瞬息が立っていた。
 瞬息が立っている参道の両脇には、筋骨隆々の狛犬の像が立っていた。境内では載と計羅を始め、子供達が鬼ごっこをしていた。那由多は、拝殿への道の脇に植えてある桜の木の下で涼み、子供達を見ていた。
「遅かったな、やはり疲れていたか」
「神職様、すみません」禰摩は思わずかがみ、両手を膝の位置に付いた。
 計羅は瞬息と禰摩に気づき、駆け足で近づいた。
「お父、お帰り」計羅は禰摩の方を向いた。村人が全ての計羅にとって、禰摩の出で立ちは珍しかった。「その人は誰」
 子供達は、鬼ごっこを中断して禰摩の元に集まりだした。
「変な格好」
「何しに来たの」
 子供達は矢継ぎ早に禰摩に尋ねてきた。
 那由多は、子供達を押しのけて瞬息の前に来た。「瞬息、お帰りなさい」
 瞬息は周りを見た。須臾の姿はなかった。「須臾はどうした」
「須臾は戻っていません。名主様の所に行ったきりかと思います」
「須臾は寄り道をする性格ではない。話し合いはまだ終わっていないと見える」
「姿ケ池の状態はどうでしたか」
「水で埋まっていた。あれでは周辺で米を取るのは無理だ。六徳達に話をする為、これから向かう予定だ」
 那由多は、禰摩を見た。「その方は」
 禰摩は、那由多と目が合った。
「禰摩と言う旅の方だ。大宮に向かう途中、街道が増水して動けなくなっててな。水が引くまでの間、近場で泊めてくれと言うので連れて来た」
「申し訳ありません」禰摩は頭を下げた。
「私は那由多です。ここで神主をしているそちらの方、瞬息の妻です」
「は、はい。何だか、無理を聞いて貰いすみません」
「謝る必要はありません。困っている方を助けるのは当然です」
「拝殿なら、雨風も凌げる。そこに泊まらせればいい」
「いえ、奥に空いている間が有るでしょう」
「空いているというと、余り立ち入らないあそこか」
「そうです」
「しかし、あそこは蜘蛛の巣が張っているような場所だ。失礼ではないか」
「女の身一つで拝殿に泊めれば、男共に夜這いをかける隙を与えてしまいます」
「確かに、夜這いとなれば旅人に失礼になる」
 那由多は禰摩の方を向いた。
「奥の間は半ば倉同然となっていて、泊まるには不便です。そこでよければお休み下さい。嫌なら拝殿で泊まる事になります」
「あ、あの。奥の間で十分です」禰摩は頭を下げた。
「ねえねえ、一緒に遊ぼう」載は禰摩の袖を軽く引っ張った。
 隣にいる計羅は、訴えるように禰摩を見た。「遊ぼうよ」
「彼女はとても疲れているのよ、休ませてあげなさい」
「え、そんなぁ」載は悲しげな表情をした。
 禰摩は載を見て、頭に手を乗せて撫でた。「いいわ、一緒に遊びましょう」
 子供達は喜んだ。「じゃあね、かくれんぼ」計羅は、禰摩の裾を強く引っ張った。
「でもね、お荷物を置いてからにしましょう」禰摩は空いている手を後ろに回し、背負っている荷物を揺すった。
「うん、分かった」載は頷き、禰摩を掴む袖を離した。
「いいのか」瞬息は、禰摩に尋ねた。
「子供って、一度言うと聞かないから」禰摩は、瞬息に苦笑いをした。
「分かった。計羅、彼女はすぐに来る。待っているように」瞬息は、子供達を諭した。
「はあい」子供達は、一斉に返事をした。
 那由多は、瞬息の服装を舐めるように見た。袴は渇いた泥がこびり付き、小袖には染みが付いていた。
「瞬息、そのなりで名主様の元に行くのは失礼です。着替えてから出かけるようにして下さい」
「ああ、そのつもりだ」瞬息は頷き、子供達を払い除けて拝殿の裏ヘと向かった。「こっちだ」
 禰摩は瞬息の後をついていった。
 子供達は、去っていく瞬息と禰摩を見ていた。
「あの、はっきり物を言うのですね」
「那由多はそういう人だ。癇にさわったのなら謝る」
「いえ、それはありません。何だか不思議な方だなと思いまして」
 瞬息は立ち止まり、禰摩の方を向いた。「突然で申し訳ないと思っているが、質問がある。いいか」
「はい」禰摩も立ち止まった。
「さっき見た通り、姿ケ池では雨が降る度、すぐ氾濫を起こすが水は枯れてしまう。故に造成が終わらないまま今に至っている。貴方の集落ではどうするのか、教えて欲しい」
「造成ですか。建物なら分かります」禰摩は、片手で自身の襟を掴んだ。「何かあった場合は大工の娘に話を聞きます。その方法で駄目なら、娘を人柱にするのだそうです」
「大工の娘に」
「ええ」禰護は頷いた。「大工には物を作る力があり、娘にその魂が宿るのだと聞いています」
「なるほど、しかし建物ではなく池の造成だ。同じやり方で解決出来るかどうか」
「誰かの為、生活の為に作ると言う点では同じではないでしょうか」
「その通りだ。だが人柱は余りにも残酷すぎるな」
「ですから、娘に話を聞くのだと思います。人柱は、そういう覚悟でと言う意味ではないでしょうか。身近で見ているが故に、何かが見えるのかも知れません」
「そうだな」
 瞬息は歩き出した。禰摩は瞬息の後をついて行った。奥の住居に着いた。
 住居は藁葺で三畝半程の面積が有り、壁が漆喰で塗ってあった。戸は開いていた。突き出た縁側と内側の間とは、襖で遮っていた。
「ここがそうだ。私は用があるので面倒は見きれんが、那由多がいるので問題なかろう」
「ありがとうございます」禰摩は瞬息に頭を下げた。
 瞬息は住居を周り、背面側に向かった。
 禰摩は瞬息の後をついていった。
 住居の背面側の壁は、正面側と比べて僅かに茶色になっていた。縁側は雨戸で遮っていた。
 瞬息は雨戸に手を掛け、力を入れて擦るように開けた。縁側と、間と縁側を遮る襖が現れた。縁側は僅かに埃をかぶっていた。
「ここが、そうですか」
「そうだ。本当に大した広さではなく、物も乱雑に置いてある。更に雨戸も開きにくい」瞬息は住居の端を指差した。「便所は奥だ。井戸はここから奥に行った所にある」
「分かりました」禰摩は頭を下げた。
「では、私は急ぐのでな」
「すみません、何から何まで」
「那由多の言葉ではないが、謝る必要はない」
 瞬息は踵を返して住居を周り、正面側に向かった。
 禰摩は縁側に腰を下ろし、背負っている荷物を隣に置き、草鞋の紐を解いた。
 瞬息は戸に向かい、敷居を跨いで中に入った。
 中は土間になっていた。土の床は黒く濡れていた。隅には二尺程の釜が並んで置いてあり、間に繋がる板の間には囲炉裏があった。中に入っている炭は、わずかに煙を出していた。勝手の柱には草鞋や笠が掛けてあった。
 瞬息は板の間に腰を下ろし、草鞋を解くと板の間を上がり、間へ入った。
 間は十畳で。部屋は暗かった。隅には黒塗りの箪笥が二つと長持が一つあった。壁際には何もかかっていない衣桁が置いてあった。間と間との間は、襖で仕切ってあった。
 瞬息は袴の帯を外して脱ぎ、衣桁へ丁寧にかけた。次に小袖を脱いで衣桁に丁寧にかけた。次に長持の蓋に両手をかけて開け、真新しい小袖を取り出して開き、袖を回して着た。小袖の袖を掴み、皺を伸ばして軽く肩を回し、感触を確かめた。紫に藤の紋が入った袴を長持から取り出して履き、帯を回して調整し、わずかにきつく絞めた。きつさを感じ、帯をゆるめて結び直した。衣桁にかけた袴を手に取り、丁寧に折り畳み長持にしまった。同様に小袖も丁寧に折り畳み、長持にしまった。瞬息は箪笥に向かい、引き出しを開けた。白い足袋が入っていた。瞬息は足袋を一足取り出した。瞬息は小鉤を外して足袋を脱ぎ、箪笥の引き出しから取り出した足袋を履いて小鉤を受け糸に引っ掛けた。脱いだ足袋は長持に入れた。瞬息は長持の蓋に手をかけて閉じた。
 瞬息は間を出て襖を閉じ、板の間に向かい、柱に掛けてある真新しい草鞋を手にして土間の地面に無造作に置いた。瞬息は腰を下ろし、草鞋を履いて紐を結った。紐を結い終えると土間から戸へ向かい、外へ出て拝殿の前に向かった。
 拝殿の前では、子供達が鬼ごっこをしていた。桜の木の下では、那由多が子供達を見ていた。
 瞬息は、那由多に近づいた。「六徳の所まで行ってくる」
「分かりました。お気をつけて」那由多は頭を下げた。
 瞬息は鳥居へと向かった。鳥居の前に来ると瞬息は立ち止まり、鳥居に頭を下げた。瞬息は鳥居を抜け、石の階段を降りていった。
 禰摩は、子供達が遊んでいる境内に来た。禰摩は担いでいた荷物や菅笠を下ろし、身軽な格好をしていた。
 計羅は禰摩に気づき、足を止めた。「来たよ」
 子供達は計羅の声を聞き、鬼ごっこを中断して子供達の方を向いた。子供達は一斉に禰摩の元に集まった。
「ねえねえ、鬼ごっこしよ」
「鬼ごっこじゃなくて、花一匁するの」
 禰摩は、子供達の勢いに戸惑った。「あ、あの」
 計羅は禰摩の手を取り、境内の中央に誘導した。「じゃあね。鬼ごっこする人、皆集まれ」
「ずるいぞ、花一匁するのに」
 子供達は、禰摩の元に駆け寄った。
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