第18話 答えは知りたくない

文字数 796文字

 暗がりに身を縮めてじっと待っていたが、トムがあまりにも遅いので、外の様子を確かめようと板壁の隙間を覗いた。
 辺りはだいぶ暮れていたが、数メートル離れた場所に殺人鬼の姿が見えた。死体の片足を持って引き摺りながら狭い視界を横切っていく。
 死体は全裸だった。股から腹部まで無惨に裂かれ、持たれたほうの脚は異様に長く見えた。もう片方の脚は骨を砕かれているのか、脱いだズボンのように(よじ)れ、零れ出た内臓と共に地面を引き摺られていく。薄暗さで血や肉色の生々しい赤色が鮮明でないのはありがたかったが、アマンダは震えが止まらなかった

 ――トムはどこに行ったの? 何してるの?

 答えは考えたくない。

 殺人鬼が視界から外れると、今度は引き摺られてくる上半身が視界に入ってきた。
 抉られた胸部、腕の付け根から切断された肩の丸い断面、顔の中心にナイフが突き立てられた頭部がずるずると視界を横切っていく。
 薄暗いが、見覚えのあるナイフの形がはっきりとわかった。
 ジョシュが見つけ、その後はトムが持っていたサバイバルナイフ。

「ひっ――」

 慌てて悲鳴を押さえる。死体の動きが止まったが、それはほんの一瞬で、すぐ、ずるずると引き摺られ視界から外れていった。

 ――やっぱりトムも殺されていた。わたし、本当にファイナル・ガールになってしまったんだ。

 アマンダは声が漏れないよう口を押えながら嗚咽した。

 ――殺人鬼はどこに行ったのだろう。廃屋でトムの死体をばらばらにしているのか。それともキャンプ場まで引き摺っていったのか。

 もしこの周辺から離れているなら、今のうちに逃げ出せるのではないか、とアマンダは考えた。

 ――キャンプ場のほうは危険だから、ここの裏手から走って逃げれば、どこかの道路に出られるかも。

 そう思って、立ち上がろうとしたが、殺人鬼が間近にいる可能性も考えられ、隠れている暗がりからやっぱり出ることができなかった。
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