第20話 失敗

文字数 617文字

「っ!」

 咄嗟にタンクをつかんで立ち上がったアマンダは殺人鬼の頭上めがけてガソリンをぶっかけた。
 全身ずぶ濡れとまでいかなかったが、ハットのつばから雫が垂れ、顔や胸元までは濡れた。
 すぐさまマッチを擦って放り投げる。
 ぼっと勢いよく上半身が燃え出し、殺人鬼は持っていた斧を落として、頭に両手をやった。その手に炎が燃え移る。

「やったわ」

 後退りながらアマンダは陰から出た。
 だが殺人鬼は熱さに暴れ出すわけでもなく、苦しんで倒れ込むわけでもなく突っ立ったままだった。

 ――え? これくらいじゃダメなの?

 唖然としたアマンダは転がっていたバケツに足を取られ、音を立てて派手に転んでしまった。
 殺人鬼が炎を(まと)う顔をこちらに向けた。キャンプハットは燃え落ち、顔面の皮膚は焼け爛れ、両眼球は白く煮えている。なのに(くずお)れるどころか、まったく動じておらず、黒く焼けた両手を突き出し一歩一歩迫って来る。

「来ないで――」

 アマンダは焦りと恐怖で立ち上がれず、尻を引き摺って後退った。
 そのアマンダの上に、黒く(くすぶ)る殺人鬼が馬乗りになった。
 煙の立つ両手が目前に迫り、首を絞めてくる。親指が皮膚を突き破り、喉を左右に引き裂こうとしていた。
 激痛に叫びたくても、口から溢れ出るのは泡混じりの鮮血と笛の吹くような音ばかり。

 ――わたし、ファイナル・ガールのはずだよね? 生き残るんだよね?

 視界が徐々に霞んでくる。

 ――もうだめ。

 アマンダはあきらめて目を閉じた。

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