退魔師清水神宮寺康子の日常

文字数 4,606文字

 わたしはオカルトマジシャンアイドル清水神宮寺(きよみずじんぐうじ)康子(やすこ)。私の表の顔はマジシャン。だけれど、本当の姿は、私の生まれたお寺で代々受け継がれている退魔師(デビルハンター)として、全国津々浦々に行って、様々な怪異を天上へと帰すコトが使命なのだ。
 本日もお便りをいただいた、えー、こちらの方はペンネーム「ご飯のお供はキミの声」さんからのご依頼で、愛知県の某山中迄、来ております。ここには一つ、もう彼是三十年ほど前から営業を停止した廃病院がありまして、その昔、ここで看護師さんの女性がお亡くなりになる、という事件が発生しました。そして、それが所謂、痴情のもつれ、というところで、その女性は深い悲しみと怨念をもって亡くなったのか、以降、この廃病院では信じられない頻度で神隠しが起こるようになったのです。そして、そのうち、最初は廃病院で起こった出来事だったのですが、それが最近になって段々と近隣の町に迄及んでくる始末。何人もの人が看護師の女性の霊を見たり、神隠しにより突然行方不明になる子供が多発し、これはもう堪らん、ということで、私のラジオのヘビ―リスナーである方、役所関係の方だそうですが、「ご飯のお供はキミの声」さんがお便りでご依頼をくれた、というところになります。
 時刻は、… ……えっと、そろそろ午前二時になりつつあります。丑三つ時ですね。もういつ看護師の女性が出てきてもおかしくありません。マァ、出てこないのであれば、依頼者をぶん殴るだけですが。明日もオカルトマジシャンアイドルの公演が入っている為、この仕事はちゃっちゃと終わらせてホテルに帰って寝る必要があるのです。幸い、公演が愛知県内である為、丁度良かったのでこのご依頼を受けたんですよね。
 そういうワケで、真っ暗な廃病院の中を探索したところ、廊下や朽ち果てた診療室、待合室や病室でも霊音(らっぷおん)が鳴るわ鳴るわ、暗いよ狭いよ怖いよおを堪能するコトも出来ないほどの大合唱。退魔師(デビルハンター)の私をまるで歓迎するかのようなその現象に、軽く顔がにやけてくるほどでした。
 そのうち、私は廃病院の最奥にある何の部屋か一見分からない部屋に辿り着きましたが、比較的大きいその部屋をしっかりと探索する内に分かりました。そこは、複数の死体が安置される死体安置所だったのです。これは一番、ヤバい匂いがぷんぷんします。きっと、看護師の女性の霊はここにいるハズです、多分。私は退魔師(デビルハンター)ですが、あまり霊感はないので、ここで心霊用具(ゴーストアイテム)にご登場奉らんことにしました。
 私のリュックの中から取り出したるものは、まずトリフィールドです。これは電磁波を計測する機械で、主に電磁波を扱う方たちが使用するもので、研究機関や会社などで電子機器の電磁波測定や電磁波の洩れを検知する用途で販売されているものです。ですが、これがななんと霊にも使えちゃうということで、今心霊界隈では必須アイテムとなっています。なぜだか分かりませんが、携帯の電波が一切立たないようなこのような山奥でも、奇妙なことにぎゅーんとトリフィールドが反応するのです。そういうトキ、そこには何か得たいの知れないものがいる。怪異が潜んでいる可能性が高いのです。
 それで、私はまずこの死体安置所でトリフィールドを使ってみました。暫くちきちき… …となっていましたが、特に何も反応がない。
「おっかしいなぁ」
 私は苛立ちに独り言ちました。何も起こらなければ、あの「ご飯のお供はキミの声」を殴り尽くす。私はそれだけを肝に銘じながら、トリフィールドの反応を見つつ辺りを見回していましたが、次の瞬間、トリフィールドが急速に反応、狂ったようにぎゅーんと音を立てる機器の数値を見て、私は眼を見開きました。値、一万。確実にいます!!!!
 その瞬間、私はカーゴパンツの中に仕込んでいた、第二の心霊ハンター御用達のアイテムを取り出しました。これは、イッツ、スピリットボックスです。これは霊と話ができる機械です。電源を入れると、雑音がめちゃめちゃ入るので超うるさいのですが、電波の入らないこんな場所にも関わらず、こちらから問いかけると奇妙な返事が帰ってくるのです。私は、スピリットボックスに向かって、とりあえず声をかけてみました。いかに心霊とは云えど、最初は何気ない話から入るのがセオリーなのです。そこは、生者であろうと死者であろうと同じです。
「こんばんわー。お邪魔してまーす。わたくし、オカルトマジシャンアイドルをやらせて頂いております、清水神宮寺(きよみずじんぐうじ)康子(やすこ)22歳です。… …少し、お話聞かせてもらっても、よろしいでしょうかー?」
「……… ……ジコジコジコジコ………… ………… …………」
 雑音しか聞こえない。だけれど、これはいつものパターンだ。直ぐには答えてもらえない。
「…… …もしもーし。聞こえてますでしょうかー?」
「………… …… …… ……… … …… …はい… …… … ………」
 きたぁああああああああああ!!!私は心の中で叫んだ。しかし、この浮ついた心を相手に気づかれてはならない。必ず、この怪異を撃滅してやる。
「……あ、こんばんわー、お邪魔しておりますー。わたくし、清水神宮寺(きよみずじんぐうじ)康子(やすこ)22歳ですー。恐れ入りますが、死亡しちゃった看護師の女性の方で、よろしかったでしょうかー?」
「…… …… …… …… …職業…… ……」
「… …は?」
「…… ……職業… ……なに?…… ……」
「………あ、私の職業ですか………。…… …えっと、私の職業は、オカルトマジシャンアイドルをやらせてもらっています。」
「……… …… …オカルト…… …マジシャンアイドル…… …ってなんですか……… …」
「は?そんなこと、今どうでも良く無いですか?」
「…… …… …… …お願いだから、おせーて… ……」
「………わかりました。オカルトマジシャンアイドルとは、…… …マァ、自称です。簡単に云えば、怪談をしながら、マジックを披露するというものです。みんなが、怪談のオチのところで、わっと眼を伏せた瞬間に、コイン等を隠したりできるので、客は正直ザルです」
「…… …ひどい…… …… …… …」
「さあ、私の飯のタネを告白したんですから、あなたもそろそろ吐きなさい。あなたは、あの怨念マシマシの看護師の女性霊なのでしょう!!!」
 私は痺れを切らして、心霊に向かって啖呵を切った。そろそろ付き合ってられなくなってきた。心霊の分際で人間様と喋ろうなんて一億万年早い。
「…… …… …違います…… ……もう、彼女は成仏しました…… …」
「なんですって!?」
「…… …私は… ……この……病院とは…… …全然関係ありません…… ……他所の場所で…… …全然……別件で…… …ベッケンバウアーで… …死んだ……… …男です……」
「……ドイツの皇帝……… … …てゆうか、男!?あんた、男なの?………それにしては、声がやたら高くて、てっきり女性かと……」
「…… …よく……云われます…… …そこが……昔からの…… …悩みです… …」
「どうでも良いわ。それじゃ、神隠しをしたりして、子供たちを行方不明にしたのはあなたね!?」
「…… …… …はい……… …」
「子供たちはどこ!?生きてるの!?」
「……… …ここにいます…… …… …心霊空間に幽閉しています…… …」
「声を聞かせて!!!」
「………ごそごそ… ……… …助けてー…… ……スイッチしたいー!!!… ………おい腐れブス!さっさと俺達を助けやがれ!!……… ……ごそごそ…… …どうです。皆さん生きています」
 (最後喋ったクソガキだけは助けないでおこう)
「そう。それで、あんたの目的は、一体なに!!!」
「…… …… …実は…… ……私は…… ………… …操られています。」
「え!?」
「……… …ほんとは、こんなことしたくないのに…… …むりやり… …むりくり…………やらされているのです…… ……悪い人間に… …… ……」
「……そいつは、一体誰なの!!!さっさと吐きなさい!!!」
「… … ……死霊使い(ネクロマンサー)ご飯のお供…… ……」
「!!!!」
 ご飯のお供…… ………まさか………。私をこの廃病院に来るように依頼した、お手紙の野郎。まさか。
「…くっくっく…… ……」
 私は不意に後方から聞こえたその声に驚き、ばっと振り返って懐中電灯で照らした。
「うわっまぶしっ」
 後ろにいたその謎の人影が、懐中電灯の明かりに眼をやられたようで、両手で顔を覆っている。
「あ、すみません」
 私は思わず、謝罪を述べた。
「いや、いい。……… …くっくっく…… …… …。」
「あなたは…… …一体誰!?何者なの?」
 相手の声は、どうやら女性のようだった。そして、その顔には奇妙な真っ白の仮面をつけている。
「……… ……くっくっく。よくぞ、こんな山奥まで、きましたね。退魔師(デビルハンター)清水神宮寺(きよみずじんぐうじ)康子(やすこ)
「……!!!私のことを知っている!!」
「あたりまえですやん。この界隈ではめちゃめちゃ有名ですもん。副業でめっちゃ儲けてる。オカルトマジシャンってのは一応の肩書で、ほんまはカード配る時などに、殊更に胸を強調した服装で色気でリスナーを囲っている、悪徳マジシャン、ってね」
「……商売の仕方は人それぞれだッ」
「そうかな?紳士協定というものをしっているかい」
「………そうか、わかったわ。あなた、商売仇ね?私の商売の邪魔をしようと」
「マジシャンと退魔師(デビルハンター)を兼業しているのは、あなただけではないと云うコトよ!!!」
 そういうと、相手は謎の白仮面を脱ぎ捨てた。その後ろから出て来たのは、時代遅れのソバージュを伸ばした見覚えのある女だった。
「………!!…… ……あなたは…… ……マジシャン界の獣神、(ケモノ)がれファイヤほとこ52歳!!!」
「……… ……私のことを知って呉れていて、嬉しいわ。」
 勿論、知っているに決まっている。マジシャン界の獣神といえば、この国で唯一の存在。国の首長だって、云われたら彼女の足をぺろんちょしないといけない程の絶大なる権力を持つ伝説上の人物である。そして、ウワサでは数々の悪行により退魔師(デビルハンター)の名を剥奪されたと聞く。……まさか、実在していたとは。
「…… ……マジシャン界の獣神、(ケモノ)がれファイヤほとこ52歳…… …… …そして、またの名を死霊使い(ネクロマンサー)ご飯のお供!!!… …一体、何故こんな悪行を働かせる!!!」
「だまらっしゃい!!!!」
「あ、はい、すみません。…… …一体、どうして、こんなコトをされるのでしょうか」
「こほん。そうねぇ。平たく云えば、あなたをおびき寄せるためね。あなたは、ユーチューブやラジオ等の反則媒体を駆使して人気を博し、マジシャン界をひっ掻きまわして、すべての客をひっぱろうとしている。それによって、食いっぱぐれた、底辺マジシャンが沢山いるわ。その人たちの為に、私は… …」
「隙あり!!!!!!!!!!!」
 私は、両手の拳に極大の超能力(チカラ)をためると、両拳にはとてつもない時空玉が発生した。その両拳を一気に、死霊使い(ネクロマンサー)ご飯のお供のお胸あたりに向かって、渾身の力をもって叩きつけた。
極大神光拳(ゴッドフォースアグレッサー)!!!!!!!Ω(オメガ)!!!!」
 その瞬間、廃病院と町を中心とする半径数十キロ圏内にメガトン級の大爆発が発生し、業火に巻き込まれた周辺の人々は、一人残らず消し炭と化した。そうして、私の退魔師(デビルハンター)としての業務は無事完了と相成ったのである。かしこ。

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