警視庁刑事部捜査五課。そもそも公には捜査課は四課迄しか存在しないハズだが、実はもう一つ、五課が存在する。
通称を
超能力犯罪対策課と云う。マル暴に
倣ってマル超と云われるコトもあったが、そう呼んだ際にはホルモン部位に間違えられるコトも
屡々であり、然し、犯罪等の有事の際にホルモンのコトを連想する等、聞いてる方のお前、どんだけお腹減ってるねん。どんだけ食いしん坊やねん。と、聞き手側のヒヤリング能力に問題が無いワケでは無かったが、いずれにせよ、マル超と云う呼び方はあまり流行らなかった。
公には存在しないコトになっている此の組織の主任務は、超能力犯罪の防止、又は対象の
撃滅
である。昨今、超能力者による犯罪は増加の一途を辿り、其の内容も凶悪なモノばかりである。原因は不明であるが、或る一人の人間に備わった超能力と云う名の強力な才能は、其の個人の資質によって恐ろしい凶器に成り得る。そして、其の様な
超能力犯罪者に対抗すべく創設された
超能力犯罪対策課に所属する彼等もまた、類まれなる超能力を持った者ばかりであった。
「… ……何故です!?
犯人まであと少しなんですよ!?此処で逃がしてしまえば、今度、何時捕獲のチャンスが来るのかも分からない!!ゼッタイに、此のタイミングしかありません!!港の第一倉庫に潜伏している今!此れから直ぐに、
内山田順二を捕獲すべきです!」
捜査五課の部屋で大声を上げたのは、半年前に此の五課へ配属されたばかりの唯一の若手刑事、
菩薩信亜24歳だった。彼は熱血漢であり、犯罪を心の底から憎んでいる。と云うのも、彼の父親は、彼が小学校のトキ
超能力犯罪者に襲われて以来、頭が錯乱し、毎日飯も食わず塩をねぶって生きているのである。
信亜は其の姿を見ながら、親父が塩をねぶり続けてりいるのは、塩製造業者が塩を製造し続けている所為だ、奴等が塩を量産しなければ、親父はキッチンの隅に隠れて壺に入った塩をねぶるコトもなくなる。塩製造業者の連中許すまじ、と、斜め135度くらいにひん曲がった誤った認識の儘、
菩薩信亜は高校三年のトキ、近所の塩製造業者『わくわく堂』にテロ攻撃をしかけようとしていた。そうして、持ち前の超能力、
新感覚神拳でわくわく堂を破壊しようとしたのである。だが、其処に立ちはだかったのが、
超能力犯罪対策課所属の
武智フルアルティメット43歳だった。
「坊主… …… …一体何をしようとしている」
「…… …あ?なんだよ、おっさん。…… …てめぇには関係ねェんだよ。其処をさっさとどきな。… ……でないと、アンタまで消し炭になって死んじまうぜ?」
此の頃の
菩薩信亜はナイフのように鋭く狂暴な少年だった。だが、そんな
信亜に対しても、
武智フルアルティメット43歳はマッタク動じることが無い。
「…… ……はっはっはっは。威勢が良い
子供だぜ。… ……良いだろう。やってみな」
「…… …!… ……なんだって?」
「…… ……良いからよ。…… … ……良いから、お前が今云ったように、其の
超能力を俺に向かって発揮してみな。」
「……… … ……。… ……なめてンのか、てめェ… ……… …」
「…… …ん?いーんや。舐めて等いないさ。只、お前さんも、存分にした方が、スッキリするだろうと思ってさ。」
信亜の前方に立ちはだかる
武智フルアルティメット43歳はそう云うと、外国人よろしく大袈裟な見振りで両腕を広げた。
信亜の表情に地獄の底のような怒りが現れる。
「……… …… …… …其れが、舐めてるっっつってンだよぉ!!!!!!!!」
「…… ……… …… …くるか」
武智フルアルティメット43歳が独り言ちながら、速やかに戦闘態勢をとった。
「
新感覚神拳!!!!!
γ!!!!!!!!!」
「…… …… ……なっ!
γだと… …」
信亜の放った見事な正拳突きの先から、爆発的な時空玉が発現し、とてつもない速さで離れていた
武智フルアルティメット43歳に襲い掛かった。
「あっ、えっ!ちょ、ちょっと…」
新感覚神拳γが
武智の身体に衝突すると、
武智は一瞬の内にふっと云う感じで消し炭となり、其の半径数百メートルの範囲に大爆発が起こった。付近に居た生物はすべて塵となった。
「…… …… … …… …」
そんなちょっとした奴の邪魔も入ったモノの、
信亜は其の後、速やかに塩製造業者『わくわく堂』の自社ビルに再度、渾身の時空玉をぶつけ、大爆発により周辺すべてを更地にし復讐を決行した。然し、其の後よくよく考えてみると、あれ?もしかすると、此の塩製造業者は別に悪くなかったのかな?関係なかったのかな?…… … …俺が
殺ったコトって割と取返しがつかないコトやったのかな、と考えなおすにつけ、悔恨の念が
信亜を支配した。そして、改めて心を入れ替えて生まれ変わろうと考えたのであった。其のような経緯により数々の幸運もあって、就職先として
超能力犯罪対策課を選んだのだった。
「マァ、待て
信亜。今回のチャンスは、悔しいが諦めるんだ。」
聞き分けのない
信亜にゆっくりと諭すように云う男が居た。男の名は五課部長の
影太一50歳である。
「何故ですか!!!!」
既にかなり熱くなっている
信亜は、影の胸倉を掴んで叫んだ。
「…… …… …イテテ…… ……。…… …事情が変わったんだよ。……お前は知らんだろうが、非常にマズイ相手が、捕獲対象である
内山田順二に加勢したんだ」
「…… …マズイ相手?」
「… …ああ。」
「…… …どんな野郎なんですか。そいつは。」
「其の前に、部長の胸倉を離しな、
信亜」
信亜が声のする方に顔だけを向けると、其処には先輩刑事の
富士山刑事が居た。
「……… …
富士山刑事… …」
信亜は其の
富士山刑事の一言で、影の胸倉から手を離した。一センチほど両足が浮くほど持ち上げられていた影部長は、息苦しさから解放されたのも相まって、其の儘どしゃりと床に座り込んだ。
「… ……急遽、作戦を中止せざるを得ないほど、危険な野郎なんですか!?其のマズイ相手ってのは」
「…… …… …ああ。…… …名前以外、職業、年齢等が殆どが謎に包まれている男だ。」
「……… … …」
「…… …
山田隆という男だ。…… …『永遠の残像』の異名を持って居る。」
「……『永遠の残像?』ですって?… ……どういうコトですか!?… …其の異名の由来は?」
「…… …奴は、存在感が薄すぎて、一生残像のような存在なのだそうだ。奴が話しかけても、誰も奴に気が付かないほどらしい。捕獲対象である
内山田順二が『永遠の残像』を問い合わせ窓口にした今、俺達は
内山田順二には一生辿りつけないんだ。」
「…… …は、はあ」
先輩社員の
富士山刑事の話が良く分からなかったものの、マァそういうモンなのかと思い、
信亜はとりあえず話を合わせた。
「又、先ほど入手した情報によると、幾人かの加勢も居るとのコトなんだ。」
富士山刑事が続けて口を開く。
「まだ居るのですか!?」
「ああ。まず一人目。名を
鳥目学と云う。奴は、
念動力を武器にしている。『量産型の一匹狼』の異名を持つ。そして、二人目の奴の名は
深夜新だ。此奴は『紅の下着』の異名を持って居る。そして… ……」
「『紅の下着』!?…ちょ、ちょっと……其れは一体… …」
「そして、次の男。三人目の刺客は、
程よし栄太郎67歳。此奴は『通い慣れた病院』の異名を持つ。」
「…通い慣れた病院… ……それは、最早、本人の話ではなくなっているのでは……」
「……そして、最後の男。此奴は、長野県在住の育メンだ。……異名は『食いっぱぐれ斎藤』……」
「先ほどから、ほどよくダサさを感じるのは俺だけなんでしょうか?」
信亜が至極全うな疑問を投げかけた。
「黙ってろ、
信亜」
富士山刑事が何も知らない若い刑事を窘めた。其処で、思い出したように先ほど
信亜に胸倉を掴まれていた五課部長の
影太一50歳が思い出すように声を上げた。
「ああ、懐かしいな。『食いっぱぐれ斎藤』。… …『近距離パワー型ゆりこ』と『バトルホッパー潤』の三天王の一人だったよな。」
其の言葉を聞いて、
富士山刑事も顔がにやりとほころぶ。
「ですねー。あの頃は、影部長も、俺も、まるで尖ってて、鬼神のごとき雷神の感じでもって、
超能力犯罪者共をひっとらえてましたよね。マジ、あの頃の部長は凄かったです。」
「おいおい、やめてくれよ、照れるじゃないか。」
影太一50歳がそう云いながら頭の後ろをぽりぽりと掻いた。
「おい、
信亜」
富士山刑事が、不意に
信亜の方を向いて問いかける。
「はい。」
「影部長の、昔の通り名、知ってるか?」
「おい、
富士山刑事、やめないか」
影太一50歳がやめないか、と云いつつもちょっと云って欲しそうな鬱陶しい表情をしている。
「え!?影部長も、昔は異名があったんですか?」
「ああ。勿論さ。」
「聞きたいです!!どんなのですか?」
「…… …… …ゴッドエンジェルだ。」
「…… ……!… ……………だっ… …… ……」
信亜は思わず、だっさーと零れそうになるのを抑えるように、必死に両手で口を塞いだ。