サイキック最終決戦

文字数 4,991文字

 大阪府大阪市JR大阪駅周辺。
 ビル群の間を縫うようにしていくつもの煙が立ち上っている。また、外壁が奇妙に捻じれえぐり取られているかのようなビルも見受けられる。
 辺りは既に避難指示が発せられ、街中に人影はどこにも見当たらない。ただ、上空に浮かんでいる学ラン姿の二人を除いて。
 一人は長身で短髪、細見だが筋肉質な青年。東京都23区出身。名は残間原該(ざんまばらがい)、21歳。もう一人は細見で女性のように色が白いが、眼鏡の奥には青く燃える炎を宿した少年。同じく東京都23区出身。京氷雨駁(きょうひさめまだら)、17歳。
 これまでの幾多に渡る血塗られた邂逅の後、ついに二人は大阪の地で最後の決戦を迎えることととなった。
 この最終決戦の凄惨さと激しさは、この破壊しつくされた街が雄弁に語ってくれる。
 逃げ遅れた者や破壊に巻き込まれた者、その者たちは皆、漏れなく動かぬ屍となった。また、この二人のサイコソルジャーを中心に半径約500m圏内には特殊な磁場結界が発生し、一切の飛行物は近寄ることができなかった。
 そして、この1昼夜に渡る激闘の末、ついにマダラはガイを追い詰めた。
 マダラの口からは激しい吐息と共に、涎がだらりと落ちた。既に両者とも体力は限界に達していた。ガイの左腕からは大量の血が流れており、右手でそれを抑えながら辛うじて立っている。ガイの目元も虚ろであり、表情は生気を失っていた。覚醒したマダラのサイコキネシスはガイの力に追いつき、そして凌駕しつつあったのである。
 中空に相対するマダラに向かってガイが突然叫ぶ。そこには魂が張り裂けんばかりの虚勢の響きがあった。
 「愚かだな、マダラ!!これがお前が望んだ戦いなのか!これまで沢山の人間が死んだ!その度に、俺は俺の目的へ進んでいったのだ!だが、お前はどうだ!お前の歩みと俺の歩み、一体どこが違う?マダラ、お前が幾ら自らの行いに詭弁を並べようとも、隠し通すことなどできない!お前の道は俺と同じ、血に塗れている!!」
 ガイは天空を仰ぎながら笑った。
 都市機能を失った静かな街にその声はこだまし続けた。
 マダラは無表情のまま荒い息をしながらガイを見つめていた。もはや、意識は混濁していた。
 一しきり声を上げた後、ガイはその危険な両腕をもう一度マダラに向かって振り上げた。
 「死ね」
 ガイが恐ろしい笑みで振りかぶった両腕から、高層ビルに匹敵するほどの高く太い炎柱が、地上から上空にいるマダラを飲み込んでいった。ガイの尋常ならざるパイロキネシスの力だった。その希望をも燃やし尽くす獄炎に、マダラはなすすべもなく巻き込まれる。
 「俺は、お前を倒すまで死ぬわけにはいかない…」
 朦朧とした意識の中で、マダラは呟く。マダラの頬を、胸を、手の平を、ふくらはぎを、今まさに炎は容赦なく焼き焦がし、炭化したそこから黒い煙を放っている。
 そんな中、マダラは最初に自分の代わりに犠牲になって死んだ孤児院の佐藤さんを思い出していた。


 佐藤さんは孤児院でまだ小さく孤独なマダラを母親のように世話してくれた人だった。
 マダラは中二で族の統領をしていた頃も、佐藤さんはカマキリバイクに乗ったマダラの頬を張り倒した。どんなに親不孝な醜態を晒しても佐藤さんはマダラを見捨てなかった。そんな時ガイが現れて、あれは忘れもしない。コンビニエンスストアの前でたむろしているマダラに注意しにきた佐藤さんの後ろにいた人影が、マダラの目の前で佐藤さんを消し炭にしたのだ。犯人の男はガイと名乗った。
 また、マダラは中学の同級生、田畑良子(たばたよしこ)を思い出していた。
 田畑良子は中学二年生の頃、マダラと同じクラスになった。
 マダラは最初、田畑良子のことは眼中になかった。なぜかというと、田畑は学年一地味だったからだった。眼鏡でおさげ女子という典型的なスクールカーストの最底辺だ。
 マダラがもっぱら夢中になったのはミス新橋中トップ1と言われる花蓮花(かれんばな)サレリッカだった。
 他の同級生と同様、マダラもサレリッカのその振り向くとほのかに香るシャンプーと雌の香りにメロメロな一人だったのだ。その事態が一変するのは、ある夏の水泳の授業の日。マダラは少し熱っぽいと担任の先生に訴え、途中で授業を上がった。身体を冷やしてはいけない為、先に着替えをしようと教室に戻ると、なぜかそこに田畑良子がいた。そして、あろうことか、そこで着替えていたのであった。田畑もまた水泳を早引きしていた。そしてそのときマダラは見てしまったのである。その田畑良子の、線が細いが決して痩せているわけではなく丸みのある肉付きの良い身体のライン。体育の後の薄桃色になった肌。そして、眼鏡を外したその顔は意外なほど顔立ちのくっきりとした二重の美人だったのである。田畑が着替えるため動くたびに、小刻みに震える丸く大きな乳房。そこにはマダラの青春そのものがあった。
 「ああ、田畑」
 それ以来、マダラは田畑良子のことばかり考えていた。田畑良子に対する気持ちは間違いなく恋なんてものではなく性欲であった。
 マダラは性欲オンリーであることを悟られないように、細心の注意でもって田畑にできるだけ話しかけた。生活感のある話題やちょっとしたウンチクなどを散りばめたためになる話をしたり、美辞麗句を駆使したりした。そしてその用意周到な姑息な作戦で機が熟した頃、マダラは意を決して付き合ってほしい旨をお願いしてみた。その結果わ!
 「無理」
 とのことだった。
 それは一体なぜなのか。
 当時のマダラは分からなかったので、ここがマダラの若さというところだろうか、何故なのか、ということをわざわざ本人に問うてみたのである。その返事は、その頭。
 「頭のリーゼントがこの上なく無理です。付き合うぐらいなら死にます。」
 とのことだった。まだらは族の統領なのでリーゼントは欠かせないのである。しかし性欲オンリーばれしてないとの事で少し安心した。
 というわけで、そういわれるとこちらとしましても仕様がない。どうしようもない赤っ恥をかいたマダラは、その場から、つまり放課後の校舎裏から、さっさと退散しようとした矢先、後ろで火の手が上がったのを横目で捉えた。て。
 「てえへんだ!」
 って大声をあげて振り返るとそこには、消し炭になった田畑良子の代わりに笑顔の残間原該(ざんまばらがい)が立っていた。ここでは、まだマダラの超能力は覚醒していない。(Madara's psychic has not yet awakened)


 鶴田博士のことも忘れてはならない。
 鶴田博士はマダラのサイキック能力の開発者だった。
 マダラは中学卒業と同時に族を引退した。次に何をやろうか悩んでいたところで、街中を散歩していたところ、いつもいくレンタルビデオ屋の隣の雑居ビルに『鶴田博士のサイキック研究所』という看板を見て、これかもしれないと門を叩いた。
 ドアを開けると受付の地味な事務員に部屋に通してもらった。そこには頭がつるっつるの鶴田博士が椅子に座ってこちらを見ていた。
 「君が来るのは分かっていた。嘘だけど。」
 そう話しかけてくる鶴田博士にマダラは、その舐めた口に大層イラときて鶴田博士の胸倉をつかんだ。
 「んっだらあっ!ぁあッ!」
 一瞬で従順な子羊となった鶴田博士の手足を存分に使って、マダラは自身のサイキック能力を開発させた。
 その開発には当時、莫大な資金が湯水のごとくがんがん投入されていたというが、それはすべて鶴田博士のリアルマネーから捻出されており、更に後の調査で分かったことだが、博士はその研究の為に多重債務者となっていた。すべてマダラのせいだった。
 また、マダラは同時に地味な事務員とも恋仲になっていた。この男は超能力だけでなく女性の開発にも余念がなかったとのことです、どうぞ。また、後の調査でそちらからも割とまとまった金を引っ張っていたことが分かった。例によって二人もガイによって消し炭にされる。


 そして、そのような紆余曲折の中、マダラはサイコソルジャーとしての力を蓄えていった。平たく言うと、地元のサイコ野郎たちとサイコ合戦を日夜繰り広げることにより、実践に慣れていったのである。元々族の統領をしていたこともあり、そちらについてはお手のものだったのだ。
 そんなある日、ついに自身のルーツである実の父、圧紅蓮鎖信夫(アグレッサーのぶお)との邂逅を果たす。信夫は全裸にチェーンをぐっるぐる巻きに巻き付けたただの変態だった。自らをアンチェインと名乗った。
 マダラを捨てた後、薄暗い洞穴の中で一人暮らし始めた信夫は、一通りのお持て成し技術を体得していた。長年の探索の後見つけたその洞窟でお持て成しを受けたマダラは、洞窟暮らしも案外良いかもと思い始めていた。そして3ヶ月ほど経った頃、信夫の消し炭死体が発見されたのだった。チェーンだけがうず高く焼け残っていた。
 だが、既にマダラは信夫から一つの事実を聞いていた。
 「お前と残間原該(ざんまばらがい)は腹違いの兄弟なのだ!」


 「俺の大事な人たちを殺したお前を、俺は許さない」
 マダラは燃える景色の中から言った。それを見ていたガイは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
 「我が弟マダラよ…」
 なんと、ガイはマダラが弟であるということを知っていたのだった。最初から知っていて、マダラに接近していたのである。
 「貴様に弟呼ばわりされる筋合いはない!!」
 「これは俺の母上、是前田義祥(これまえだぎしょう)の形見だ」
 そういうと、ガイは胸から大きな鉄製のペンダントを取り出した。表には土星のマークが美しく彫られていた。
 「これと同じものを、お前も持っているはずだ」
 そのペンダントを見てマダラは驚いた。それは自身の母親の形見ということで、佐藤さんから手渡されたものと同じだったのである。
 「持っていない!!」
 マダラは必死に否定する。だが、動揺の色は隠せない。
 「いや、お前は持っている。その白い胸からはみ出ている銀色のものはなんだ?」
 「くっ…」
 ガイは自身のペンダントを開いた。そこには、鉄仮面を被った恐ろしい姿の写真が入っていた。
 「これが誰だかわかるか?!この方こそは、宇宙全土を束ねるお方、全知全能の神、ウォール・ゴーン・ホゥ様で在らせられるぞ!!お前のペンダントの中にも同じものが入っているはずだ!!」
 そういうと、ガイは天を仰ぎ見た。そして、携帯を取り出し、どこかへTELし始めた。
 それを号令に、深い上空のあちらこちらから、巨大な宇宙船がいくつも降りてくるのが見えた。いよいよ、宇宙からの侵略が開始されたのである。
 マダラは信じられなかった。ペンダントの中は開けるなとの母親からの遺言だったと、佐藤さんから聞いていた。その為、一度も中身を見たことがなかった。
 マダラは、自身の運命を呪った。今まで17年間生きてきて、憎しみの力を糧にして生きてきたところも間違いなくあった。それは、このペンダントを母親の形見だと信じて拠り所としていたからだ。そうでなくては生きてはこれなかった。
 かつてのリーゼントで統領のマダラはもういない。リーゼントはもうやめて、今は吉田栄作ヘアである。眼鏡は性欲オンリー田畑良子を模して掛けた伊達物だ。今は生まれ変わり、全ての思いを繋ぎながら俺は今生きている。そのペンダントの中身が、まさか宇宙全土を束ねる全知全能の神、ウォール・ゴーン・ホゥだったとは。誰だかまるで存じ上げないが、それは本当にショックだった。
 マダラは、ひどく疲れていた。全身は炎で焼かれてすでに散々だった。そこにこの、ペンダントの中身が宇宙全土を束ねる全知全能の神、ウォール・ゴーン・ホゥだったとの知らせ。心はもう打ちひしがれて悲鳴をあげていた。
 そんな何も考えられない頭で、マダラは、覚束ない手つきでどうにかペンダントの中身を開けてみた。
 そこには亡き父、圧紅蓮鎖信夫(アグレッサーのぶお)の全裸にチェーンをぐっるぐる巻きに巻き付けた写真が入っていた。
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