第1話

文字数 823文字

 金が要る。それも大量の現金だ。
 ゼロの並んだ預金通帳を眺めながら、鷹山浩吉(たかやま、こうきち)は深い溜息を吐いていた。
 彼は本来真面目な男であった。勤めていた会社では仕事一筋で、結婚どころか女性などには目もくれず、ただ一心に会社のために尽くしてきた。
 四十を過ぎた時に上司に連れられて入ったキャバクラでの事。鷹山はたまたま席に着いたホステスにひと目惚れをしてしまう。今にして思えば初めて理想の女性に出会ったと思い込み、懸命に貢いだのが転落の始まりだった。
 女性に対して免疫のない鷹山はその女にのめり込み、気が付けば借金まみれとなり、部屋中を請求書の山で埋め尽くすようになっていた。
 止まれずコンビニ強盗をしたのだが呆気なく逮捕。執行猶予が付いたものの、生活苦からは逃れられない。
 その後、空き巣や車上荒らしなどを繰り返してはみたものの、ついに鷹山は実刑を喰らって刑務所へと入れられた。

 出所後、再起を図って管理官から紹介された工場に就職してみるも、周囲の目が気になり仕事に集中できなかった。いたたまれなくなり半年も経たずに退職すると、もはや首をくくるしか手段がないと思われた。
 そこで一発逆転を狙って銀行強盗をすることに。
 刑務所内で知り合った、同じく借金で苦しむ安永雄二(やすなが、ゆうじ)いう男と意気投合して作戦を練る。往年の刑事ドラマの真似をして互いにタカ、ユウジと呼び合うことにした。
 最寄りの銀行では足が付くと思い、電車で三駅先の信用金庫をターゲットに選ぶ。
 マスクをして視察する事三回。職員の数や防犯カメラの位置を確認すると、不思議な事に何だか上手くいきそうな気がしてくる。
 拳銃が手に入らなかったので代わりとしてモデルガンを用意した。どうせならとショットガンとマグナムにしてみる事に。見た目は本物そっくりに思えたが、実物を見たことが無いのではっきりとは判らない。しかしそれは職員たちも同じだろうと、笑い合うタカとユウジであった。
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