7頁、仮面夫婦生活

文字数 1,004文字

 私を騙した!彼は私を騙した!殺してやる!
 絶対に許さない!
と思ったところで。私はお腹の子供に考えが及んだ。そこで再び、大きく息を吸うと。
 殺しはしない、あんな男のせいで生まれてくる子供と、私の人生を無茶苦茶にされてたまるか!彼には償ってもらう。
 一生地獄を味あわせてやる。泥沼を蠢く虫のような人生を送らせてやる。

 どの道、あの遊び人なら私が出産するまで、浮気もせずにいられまい。
離婚の方法はいくらでもある。
 私の回りの悪仲間は、私の結婚が1年もたないと賭けをしていた。私は決して敗けない。
フフフフ、彼に地獄を味あわせてやる。
私は微笑みながら、父と母に挨拶に向かった。

 それから、二人の仮面夫婦生活が始まった。
私が真実に気がついている事に、気付いていない彼は。兎に角、良い夫を演じ続けた。
 父の会社でも、肩身の狭い思いをしているかと思えば。バリバリ働き、社交性良く仲間を増やしていった様だ。
 よしよし、そうやって上がって行くがいい。
落ちる高さは高い程、お前にはダメージが大きいだろう。
死ぬほどの苦しさを味あわせてやる。
私は別の意味で彼の活躍を喜んで見ていた。
 案の定、彼の帰りは遅かった。遊び歩いているのだろう。外食ばかりで、家で食事を摂ることはなかった。

 母が、お腹が大きくなって家事が大変だろうから、家政婦さんを雇ってやると言ったが。
私は実家に帰りますと彼に告げた。
 彼は残念そうな心配そうな顔をしたが。
心の中はしめしめと思った事だろう。
 私は実家で臨月まで過ごした。
彼は特に何のトラブルも起こさず。たまに実家に現れては、泊まることなく新居に帰っていった。私も仕事があるでしょ、と無理に引き止めたりはしなかった。

 そして私は、女の子を出産した。
名前は希(のぞみ)。彼は出産には立ち合うこともなく。翌日、仕事を理由に来れなかったと言って、現れた。
抱き上げる我が子を、嬉しそうに見ていたが。
それは、自分が次期社長を手に入れるアイテムが、増えた喜びだろうと私は思った。

 私達は再び、普通に生活を続けた。
流石に子育ては大変で。昼から夕方まで家政婦さんが来てくれた。
 私の子育ては他の人達より楽なものだった。
但し、夜に何度も起きられるのは閉口したが。
昼間、好きなだけ寝られるので問題は無かった。
 彼は家で夕食を、摂ったり摂らなかったり。
相変わらず忙しいと言っては、遅く帰る事が多かった。私はまったく気にしなかった。
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