5頁、交際の始まり

文字数 821文字

 確かに沢山の人がいて賑やかな店だった。
 煙も充満していて、服に臭いが付きそうで、嫌だったが。何だか自分の知らない世界と言う刺激があった。何より彼といると楽しかった。
 私はまたもや、したたか酔ってしまった。
 いつもなら酔わないように飲むのに。何故か調子が狂ってしまった。
 私は再び彼に担がれて、タクシー乗り場まで連れて行かれた。呆れた彼は、

「大丈夫か?まったく死ぬほど飲むなよな。
自分の身体を、もっと大事にしろ」

とお説教をした。私は眠くてベンチでうとうとして、彼の話を聞いていなかった。
 すると、頬に冷たいものをくっつけられて、
びっくりしてしまった。彼が良く冷えた、缶コーヒーを買ってきてくれたのだ。
 何故か涙が出そうになった。

 そして、私に何かを買ってきてくれる人を私は知らない。私が1番のお金持ちだから、支払いはいつも私だ。
と思ったところで、私は気が付いた。
 居酒屋の支払いをしていない!
いけないと思い、酔を急いで覚まそうと、彼から缶コーヒーを受け取り飲むと。

「ごめんなさい。支払いしてなかった。
いくら?」

と聞くと。

「う〜ん、女に奢ってもらうと気分がなぁ〜。
何と言うか、バカにされた様な気がしてなぁ。いらないよ」

と言われた。私は、この男尊女卑め!
とムカッとしたが。同時に心が暖かくなった。
 何だろうこの感覚は。
 私が・・・恋をしている?
 まさか・・・ナイナイナイ。
 だけども、胸のドキドキが止まらない。
私は真っ赤な顔をして、酔ったふりで項垂れて顔を隠した。
 私はやって来たタクシーに乗せられて、座席に座ってドアを開けたまま言った。

「メモ!ペン!」

 うん?と不思議そうに、私の顔を見る彼は。
ポケットから手帳を出しペンを渡した。
私はそこに電話番号を走り書き。

「メールもラインも嫌いだから。電話して」

と手帳を返した。
 へっ?と言う顔のままの彼を残し。
私はタクシーに住所を告げた。
振り返ると、困った顔の彼が頭をかいていた。
 私は、フフフと笑った。
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