嘘の恩返し

文字数 365文字

 恩返しの話は、真っ赤な嘘でございます。
 都合よくでっち上げられたものでしかありません。
 本当は罠で捕らわれ、昼も夜もただ働きをさせられたのです。芸を仕込まれ、客への見世物にもされました。それらの合間に慰み者にされ、産まれた子は売られました。搾り取られた乳も売られました。それが数え切れないほど繰り返され、とうとう子が産めず、乳も出せなくなったら、内臓を抜かれ、皮をはがれ、歯や目玉、髪の毛までも金に換えられました。肉身を、舌も余さず食われ、骨の髄までしゃぶられて、跡形もなくなったのち魂だけが飛び去ったのです。
 いいえ、それも嘘でございます。なんとなれば、このように語っているからです。飛び去るどころか、こうして浮かばれないままにいるのです。
                                        (了)
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