女になった最高神

文字数 773文字

 全知全能らしい最高神は、女に変身した。偶然見かけた少女に欲情し、物にしたいと思ったのだが、相手はどうやら男嫌いのようだった。力尽くで、とも考えたのだが、恐ろしい妻の目が昼も夜もぎらぎら光っている。十指に余るほど浮気をしたのだから当然だ。騒ぎになって見つかったら、どのような目に遭わされるか分かったものではない。そんな妻の目を欺くためにも、女になって少女に近付こうとたくらんだのだ。同性ならば、きっと相手も仲良くしてくれるだろう。雲や雨、鳥や獣にもなれる最高神にとって、女くらい造作もないことだった。女同士で愛の営みというのも一興。その気になれば、いつでも男のものを出せる。
 という次第で親しくなろうとしたのだが、少女はたちまち逃げてしまった。泉をのぞき込んでみたところ、顔もそうだが、体つきがごつごつして背も高い。なるほど、これでは逃げられるわけだ。全体的に柔らかくし、めりはりをつけ、背も低くした。これならと再び声をかけたが、またしても逃げられてしまった。そういえば、この声は野太く、動きも荒っぽい。これではいけない、もっと女らしくなろう。そうして最高神は、美の女神を真似てまつげを伸ばし、唇をみずみずしくして、ぐんと声を高くした。髪をきらきらと長く、肌を透き通りそうなほど白くし、胸と尻をやたらと膨らませた。艶っぽいまなざしで、腰を振りながらなまめかしく歩く。もちろん化粧は濃いめ、薄布一枚でほとんど裸だ。これならば立派な女だ。女の中の女だ。そう自信満々で少女の前に現れた。しかし、そっぽを向かれてしまった。何が悪いのか、と最高神は甲高い声で叫んだ。
 中身までは変えられない、そう言い残して少女は消えた。がっくりと膝をつく耳には、妻の嘲笑が聞こえていた。
                                        (了)
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