第2話

文字数 939文字

 秋子は事故を自分のせいだと言っている。
「私が病室をしっかりと点検しておけば事故に合わずに済んだのに。ごめんなさい」 包帯を替える手を休めて、また謝る。
「そんなことないですよ。あまり気にしないでください」
 少しずつ痛みも傷も癒えてきて春雄も自分の不運を許容できるようになった。そんなに自分を咎めなくてもいいのに。前のように会話が弾まないのはむしろ寂しかった。だが、秋子の淹れてくれた紅茶は以前同様美味しかった。紅茶を口に含むとき、秋子が何か言いたそうな目をするのが気になる。が、きまって目を伏せる。

 秋子は自分の想いを言い出せずにいた。急いで言わなくてもいいわ。入院期間が長引いたのだから……。意気地なさの言い訳にする。
「さ、明日からリハビリよ。頑張って早く退院しましょう!」
 気持ちとは裏腹なことを言う自分が悲しくなる。
 二週間経った。春雄はリハビリに努め、怪我も快復してきた。が、あと三日で退院できるというころで、突然悪性の皮膚病に罹患してしまった。伝染性のある病気なので隔離室へと移された。
 そこには、またしても配置換えになっていた秋子の姿があった。そこでは秋子は真剣な面持ちで春雄を迎えた。絶対春雄に病気の苦痛を与えない、との意思が読み取れた。その看護は今まで見せたことがないものだった。体の汗を拭いてくれるとき、患部の手当てをするときなどは、病原菌が自分にうつるのさえ構わないと思われるほど献身的に行ってくれた。手当をするときはきりりと、終えた後は天使の微笑みを見せる。白衣の天使とはいうが、これは看護師の域を超えていると、春雄は思う。

 秋子は思う。もう私の気持ちは春雄さんに言わない。私が原因を作ったのだから。私のことより、春雄さんを想って、精一杯看護をしよう。

 その甲斐もあって、七日後には隔離室から一般病棟へ移された。秋子が一番喜んでくれた。春雄は、自分が癒されたのは、病だけではないことに気がついていた。春雄は一人の時にも秋子のことを考えるようになった。秋子の優しさに満ちた眼差しを想うと心が暖かくなる。自分でも驚くほど秋子に惹かれていた。この人となら生涯を伴にすることができる。いや、一緒にいたい。秋子も同じ気持ちだろう。春雄には判る。退院する前に伝えよう。
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