第9話

文字数 1,526文字

上空から飛来した戦闘機ムスタングは、両翼の爆弾を雨を浴びせる。
ナパーム弾が地上を燃え上げる。前の太平洋戦争の折と一緒だ。多くの子供たちが空母艦載機の機銃掃射でなくなったりふぐの体にされた。
投下しおわり、爆弾のなくなった戦闘機は、機銃弾を空からあびせはじめた。
風防からは、この殺戮を楽しむパイロットの顔がみえる。
低空飛行でつっこんでくるのだ。

ベビーギャングたち(戦争孤児達)の勝利の戦場となるべき場所は、修羅場となり、墓場となった。
機銃弾が、無機質な音で土ぼこりをあげ、地面をほりさげる度に、大地に鮮血が流れ
しみこんでいった。
 二つの双眼鏡が、ま下の光景をながめている。
小高い丘からは、この虐殺がー望のもとにみわたせる。
 ロパートは思わず、叫んでいた。
「死ね。みんな死ね。お前ら、ジャップ。くず野郎はみんな死んじまえ。お前ら、ガキが皆くたばったら、日本はアメリカの完全な領土になるんだ。なにしろ日本人がいなくなるんだからな」
 ほおにガーゼをあてたライリー大尉は、双眼鏡をおろし、傍らのロバート軍曹に言った。
「ようし ロバート。もう少し前進だ。それからスコープ付きライフルを出せ、俺たちの楽しみはこれからだ」
 彼らは、なんとか、戦闘機から逃れた少年達を今、望遠スコープの照準にとらえ、ねらい撃ちにするつもりなのだ

「鉄、鉄おきて」
 声がした。夢の中から聞えてくるようだ。
どうやら、俺はまた死んではいないようだな。
鉄はそう思った。
うすぼんやりした光が鉄の目をさす。
まだまだ、くらくらする。あいかわらずの米軍監獄だ。
声は床の下からかすかに聞えてくる。
それは竜の妹、恵の声だった。
「どうしたんだ。恵か」
「しっー、あまり大きな声を出さないで」
「だそうにも声はでないさ。あのロパートにえーらい目にあわされた。
それよりお前、なぜこんなところにいる」
「あなたのことが気になっていたの。あなたが、あの地図を奪ったから、どうせ進藤の店にいくとおもったわ。米軍のジープがあなたを追いかけていくのを見たわ。
車のナンバープレートが保安部のものだったから、つかまると息ったわ。
きよう、それで保安部の独房の下へ忍びこんできたわけよ」

「よく、ここまでこれたな。昔なじみにあえるのはうれしいぜ」
「何いってるの。ふざけないで」
恵は、ほんとに怒っている。

「わかった。よし、はやくここから出してくれ。ロバートかライリーがまた来た日にや、、俺はぶっ殺れかねない
「いい。言うことをよく聞いて。右壁から約一mのところをさぐってみて。何か印があるでしょう。印のある床の上を思い切り踏みつけてごらんなさい」
「少し、へこんだぞ」
「そう、そこを何とか動かしてみて」
 床は、鉄がひっぱると、穴が開いた。人一人くぐれる。
すばやく穴中にはいる。もと通りににする。暗闇の中に薄い光がもれている。声があった。
「どうやら、また、あえたようね」
「恵、一体この穴は」
「しつ、この上はずっと米軍保安部よ。気がつかたら、それっきるよ」
 小さなろうそくを恵は持っていた。
小さな声で、
「この通路は、日本軍がトウキョウ市攻防戦の際作った地下壕の一部らしいの。
これを伝っていけぱ何とか外に出られるわ。ついてきて。鉄」
 恵は先に立ち、ずんずん歩んでいく。
鉄はいためつられた体をひきずるように、光についていく。
あたりは、ゆっくりと闇がもどっていく。

 泥滓の中で、ベビーギャングの頭、ムサシの意識がもどってきた。
同時に体がほてるように暑い。

場所の感覚がもどってきた。
顔をすこしもちあげる。
まだ少し雪まじりの雨が降っていた。
異臭がする。あたり1帯が燃えあがり、人間の形をした何かが焼け焦げていた。
体が膨らみはぜた。
(続く)

続く090901改訂
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