6:微笑ましい

文字数 1,316文字

 蒼衣が出て行って数分後、深緑色のゆったりとしたニットを着た女の子が校門に近づいて来た。髪をゆるっとしたサイドテールでまとめていて、ふんわりとした雰囲気の人、という印象だ。
 あの子が、蒼衣と遊ぶ予定の子だろうか。どういう子なのか全く分からなかったから、蒼衣のコーデやメイクに多少の不安があったけれど、何となくお似合いに見えるし、まぁ問題ないだろう。
 ふと蒼衣の方に目を戻すと、蒼衣も女の子に気がつき、自分からあの子に近づいていった。その行動に驚きつつ、一瞬不安になる。
 ………おいおい、もし人違いだったりしたらどうするんだよ。気まずくなるだろ。
 案の定、女の子はぽかんと口を開けて固まってしまっている。たしかに、あの芸能界だって放っておくはずのないほどに整った顔を持っている蒼衣を目にすればそうなるに決まっているが、あれは蒼衣が悪い。引っ込めさせるべきか、とドアに手をかけた。
「えぇ?!」
 一体何を言ったのか、女の子は今度は目を丸くして声をあげた。そして蒼衣の話を聞きながら、これまたぽかんと口を開けて固まっている。
 忙しい子だなぁ、と見ていて少しおもしろかった。きっと、あの子が今日蒼衣と遊ぶ子なのだろう。
 ピロリロリンッ。
 微笑ましく2人を見ているとのスマホに1軒の通知が届く。確認すると、愛しの美鳥からの連絡だった。
【今、何してる?】
 シンプルな、素っ気ない文章だけど、なんとも美鳥らしい。しかも、美鳥が用もなく連絡をくれた事に、素直に喜びを隠せなかった。
 ルームミラーに頬の緩みきった俺の顔が映る。美鳥に見られたら、きっと「気持ち悪い」で一蹴されてしまうだろう。ペチペチと頬を叩き、キリッと真面目な顔をして自分の顔を見つめた。
【蒼衣が女の子と遊ぶっていうから、その子の見極めと運転手役してる。………もしかして、今寂しがってたりする?】
 たくさん美鳥と繋がっていたいので、みるみる文章が長くなっていく。世間一般には、重いとか気持ち悪いとか言われてしまうだろうけれど、美鳥だからこそこんなに長文になってしまうのだ。
 蒼衣たちの事を完全に放置し、美鳥に返信していると、コンコンッと窓がノックされた。警察かと一瞬焦ったが、目に映ったのが美しい我が弟であったので、すぐに窓を開けた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 AKIYAMA書店に向かう道中、名前が奏恵ちゃんという事、蒼衣と同じクラスで、よく話すという事、そして弟がいる事など、それなりに奏恵ちゃんの情報を集めた。集めたといっても、俺がグイグイ質問しにいって、それに奏恵ちゃんが答えていただけなのだが。
 俺と奏恵ちゃんが話している間、ルームミラー越しに蒼衣を見てみると、分かりやすいほどに不機嫌な顔をしていた。顔は外の景色を眺めているから奏恵ちゃんからは見えないが、その周りに漂う暗いオーラは隠しようがなさそうだ。
 適当に話題を蒼衣に振り、奏恵ちゃんとの時間を作ってやると、驚いた顔で俺を見た後、例の人見知りを発動させながら2人楽しく話していた。
 ………若いっていいなぁ、と何気なくそう思った。
 スマホからメッセージの着信を知らせるバイブ音がした。
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