1:俺のかわいい弟

文字数 652文字

「蒼衣ー、今日は何時に帰ってくる?」
 玄関で靴を履く弟の背中にそう問いかけると、深いため息が聞こえた。
「昨日と同じ。――――ったく、久々に帰ってきたと思ったらすぐこれ………」
 うんざりしたように答えると、蒼衣は通学鞄を片手にドアを開けて出ていった。ガチャンと大きな音を立て、ゆっくりとドアが閉まる。
「う~ん、反抗期か………?」
 さっきの弟の対応を思い出すと、そう考えずにはいられない。何度か話しかける度にため息が出ているし、話し方もどこか突き放しているようだ。
 冷たくなったなぁ。昔はあんなに兄ちゃん、兄ちゃんって後ろを追いかけてきてたのに。
 懐かしかったあの頃を思い出し、ひっそりと心の内で涙を流す。今の蒼衣も凛々しくなってかっこかわいいけど、昔の蒼衣もあの何ともいえない愛嬌があってかわいかったよなぁ。あぁ、ダメだ。想像したらまた悲しくなってきた。
「何やってんのよ、玄関でウジウジして」
「兄離れだぁ………」
「はい?」
 ヨロヨロと膝から崩れ落ち、床に両手を着く。洗濯かごを持った母さんがクエスチョンマークを浮かばせたが、そんな事よりも、俺は弟の兄離れが悲しくて寂しくて仕方なかった。
 こんな俺は、いわゆるブラコンというやつだろう。別にそれで構わないし、むしろそう割り切れている方が気楽だった。だから今まで全く気にしていなかったのだけれども、ついに弟が俺をウザく感じだした。これは由々しき事態である。
「兄離れ………反抗期………」
 呆れた母さんが玄関を離れて数分経っても、俺はしばらくその場で脱力していた。
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