3:それってつまり

文字数 1,304文字

 あの人見知りで自分から友達を作るタイプじゃない蒼衣に、気になる人ができた――――これは兄離れなんかよりも由々しき事態だ。
「気になるって………つまりは青春って事か?」
「まぁ、自分でもはっきり答えが出た訳ではないんだけど………多分そう」
「ウソだろ………」
 せめて蒼衣の気のせいであって欲しかったが、どうやら本当らしい。先ほど同様、頬を赤らめてアイスを咥えている。
 可愛い。さすが俺の可愛い弟だ。その顔と行動はそれはもうものすごく可愛くて写真を最低10枚は収めたいレベルで可愛いんだけど、今はそんな場合じゃない。蒼衣の気になるその子がどんな子なのか見極める必要がある。
「どんな子なの、その女の子は」
 そう訊くと、うーん、と頭を悩ませる。可愛い。
 ………ってそうじゃない。なんでそんなに悩む必要があるんだ?優しいとか、明るいとか、性格をまとめて言ってしまえば済む事なのに。
 まさか、とっても可愛い子、とかだろうか。チャラそうと言われる俺でも美鳥の中身に惹かれたというのに、蒼衣は外見で決めてしまったのだろうか。
 蒼衣の回答にドキドキしていると、ようやく答えが決まったのか、アイスを口から離した。
「初めて一緒のクラスになった俺によく話しかけてくれて、一緒に遊ぼうって誘ってくれるような人」
「思ったより具体的なのがきたな」
 まぁ、要約すると優しい子か。なるほど、友達なんていないに等しい蒼衣に遊ぼうなんて言ってくれるのか。蒼衣が心動かされるし、気になる訳だ。これは俺としても好感が持てる。
 ………………ちょっと待て。遊ぼうって誘ってくれるって事は、もう既に蒼衣が誘われてるって事だよな。蒼衣は遊びに行くのか?そもそも返事はもうしたのか?多少過保護と言われるが、これまでの経験上、蒼衣が何かに誘われて遊びに行った事はただの一度もない。もしかしたら、貴重な人間関係を手放しているかもしれない。それは兄としては心配だ。
「誘ってくれるって事は、もう遊びに誘われてるって事だよな。どっか行くの?」
 そう言うと、ギクッと分かりやすく肩を揺らした我が弟。甘いな、俺は国語の成績だけなら今のところお前に勝っているんだ。ちゃんと話は聞いてるぞ。
 動揺している蒼衣に追い打ちをかけるように質問を繰り返す。
「いつものゲーセン?それとも買い物?お互いの連絡先ってもう交換してる?」
「あぅ、えぇっと………」
 言葉に詰まっている蒼衣は、まるで鯉のように口をパクパクさせている。どれから答えるのに悩んでいるのか、それとも答えるのが恥ずかしいのか。どちらにせよ、この質問は俺が知っておくに越した事はない。
 遊ぼうって誘ってくるって事は、多分その子も蒼衣の事が気になっている。それはつまり、お互いが自分だけそう思っている、いわゆるデートだ。
 邪魔をするつもりはない。そんな権利は俺にはないし、むしろ応援してやりたいが、やっぱりその子が俺も気になる。でも、初恋だからこそ、俺も真剣に考えてやりたい部分もある。

 さぁ、言ってみろよ。兄ちゃんはお前の恋をどこまでも応援するぞ。

 にこにこと愛想笑いを浮かべながら、俺は心の中でメラメラと炎を燃え上がらせていた。
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