4:お兄ちゃんの出番

文字数 995文字

 あっという間に時間は過ぎ、今日は蒼衣が気になるという子と遊ぶ日だ。俺は昨日起こした心の炎を消す事なく、メラメラと燃えていた。
「………なんで兄さんの方がそんなに気合い入ってるんだよ」
「だってしょうがないだろ。弟の初恋だぞ?俺の初恋を秒で見破った分、お前の初恋もしっかりと見守ってやるよ」
 引いた様子で俺を見る蒼衣にウィンクし、俺は自分の部屋へ行き、持って帰ってきた荷物からいろいろ道具を取り出した。何が始まるんだ、と蒼衣も道具に目を向ける。大体の道具が揃うと、俺は蒼衣を捕獲し、椅子に座らせた。
「え、ちょっ、何する気………?!」
 ジタバタと馬のように暴れる蒼衣を宥めて俺はメイク道具を取り出した。と同時に、蒼衣の顔が真っ青になっていく。
「え、まさかメイクするの………?嫌だよ………?!」
「なんでだよ、デートなんだろ?最初ぐらいオシャレしてその子をドキドキさせてやれよ」
「べっ、別にデートって訳じゃっ………!」
 デートという単語に恥ずかしくなったのか、途端に大人しくなった蒼衣。やれやれ、こんなんじゃ先が思いやられるな。
 そう思いながらどんなメイクにするか考える。俺が言うのもなんだが、蒼衣は前髪が邪魔しているだけで実はめちゃくちゃイケメンだ。髪を整えるだけでもかなりいい感じになると思うけれど、本人がファッションにあまり興味がないので、今のところイケメンだという事は知れ渡っていない。
 あまりバッチリメイクを決めても相手が誰か分からなくなるかもしれないな。その子の好みも分からないから、1つのジャンルに絞るのも考えものだ。
 その場で数秒悩んだ結果、ナチュラルメイクに落ち着いた。

「………うん、さすが蒼衣だわ。かっこいい」
「………ありがとう………………?」
 数分して出来上がったメイクは我ながら上出来だった。ついでに、寝癖だらけの髪もまっすぐストレートヘアーにして爽やかな雰囲気にした。いつもの寝癖があっても可愛いけれど、今日ぐらいはかっこいいが勝った方がいいだろうという俺の独断により、こうなったのだ。
 人は第一印象を外見で判断する事が多い。そして、より多くの人に見てもらえるよう務めるのは、インフルエンサーである俺の出番だった。
 これで準備万端。あとは、俺が送り迎えでもして2人の様子を見守るとしますか。
 蒼衣が鏡に映った自分に棒立ちになっている間に、俺はそそくさと車の鍵を取りに行った。
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