第4話

文字数 941文字

「確かに……そうかもしれないです」
 僕がつぶやくと、クレは目を丸くしてノセはぴくりと眉を動かした。
「僕は勘違いしてたのかもしれない。どこかで自惚れてて、でも自信がなくて、この仕事に縋っていたのかもしれないです」
 立ちあがって、頭を下げた。僕の代わりは、いくらでもいるのだ。
「終わらせてもらう必要なんてなかったです。そもそも僕は終わってた。僕にしかできない仕事だなんておごりもいいところです。ノセさんの言うとおり、転職して」
「なにを言ってるんだね、君は!」
 突如、ノセが大声を張りあげて、僕は顔を上げた。ノセの顔は真っ赤だった。なにが彼の逆鱗に触れたのだろうか。クレに目線で助けを求めたが、そっと首を横に振られた。
「そんな珍奇な仕事、君にしかできないだろう! 君の代わりなんていない! 手を変形させるなんて無理だし、頼まれたって嫌だ! 君にしかできないし君しかやらないよ、そんなこと!」
 褒められているのか貶されているのかわからない。どういう態度で臨んだらいいのか。目を白黒させる僕に代わって、クレが「ノセが本当にそうか考えてみろって言ったんじゃない」とたしなめてくれる。
 すると、ノセはますます顔を茹であげて、
「違う! そこじゃない! 君は本当にこの仕事を誇りに思っているのか、と。そこを問うたんだ! なぜ対面でしゃべってここまでズレが生じるのかね? 理解に苦しむ!」
 と、ぷりぷりしだした。地団太を踏む姿はまるで子どもだ。僕はあっけに取られ、クレは「ノセのせいでしょ」と小声で文句を垂れた。
「君が誇りに思ってるなら続ければいいだけの話だが、あまりそう見えなかったものでね。心底誇ってるのなら失礼をした。しかしそれならばもっと誇ってる感を出してくれないとわからんよ!」
 謝られている気がしない。むしろ説教だ。僕は再び手を胸に置いた。クレは「素直すぎ」とあきれている。
 胸の中はマーブル模様を描いている。わけがわからない。この仕事は僕にしかできない……と思っていいらしい。でも、僕はそれを誇っているのか。いたはずなのだけれど、明言できなくなっている。なぜだ。いや、これはノセのせいなんじゃ……いやいや、ノセの一言くらいで揺らぐなんてそもそも自信がなかった証拠なのでは……
「君の名は?」
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