第5話 発表会 3分間のシンデレラ

文字数 1,386文字

 初心者コースから始めたダンス。やがて個人レッスンを受けるようになり、それなりに踊れるようになっていくと、次に待っているのは発表会である。発表会だからといって、舞台の上で踊るのを観客席のお客に見せるものだと思ってもらっては困る。
 この発表会なるもの、舞踏晩餐会などと大層なタイトルがつけられ、シティホテルのバンケットルームで行われるディナーパーティーなのだ。出演料もチケットも他の習い事とはケタ違いである。着用するドレスは、花嫁のお色直しのドレスが地味に思えてくるほどきらびやか。ヘアもメイクも宝塚ばり。広いフロアをぐるりと取り囲むいくつもの丸テーブルから観客の目が注がれる中、スポットライトを浴びて踊る。それはまさに3分間のシンデレラ。

 このような発表会を年に1度か2度。多い人で4~5回出演するのが、さきに挙げたダンスをする人種の②デモンストレーションを楽しむ人々、通称デモラーだ。当然のことながら1回の出演に数十万が飛んでいくので、かなりの財力がなければ、年に何度もはできるものではない。当然のことながら、若い世代、子育て世代には無理なので、自然とこのランクはミドル、シニア層中心になる。
 そして、ダンス界に一番お金を落としているのがこの楽しみ方をする人々でもあるのだ。なにしろ発表会に出るためには、かなりの個人レッスンをしなければ仕上がらない。発表会に出るためには、出演料、チケットの他にパートナー料といって、踊ってもらう先生へ支払う分もある。つまり出られるようにするため、そして出演するためにと何重にも資金が必要となるからだ。

 デモラーにもピンからキリまであり、年に一回がやっとという人たちは、ドレスもレンタルかリーズナブルなリサイクル、またはセミオーダーなどで探してきたものを着る。しかし、ダンス愛好家の中には、かなりの資産家も多いので、そういう方々は、当然のことながらデザインから自分に合わせてつくるオーダーメイド。もちろん先生の衣装もペアでつくる。3分間のために100万円なんていう人もザラだ。何十年もやっている人は、ベンツ〇台分だのマンション買えただの、いやいや私は家一軒分よなんて平気で言っている。

 そんなにお金をかける価値があるのか? まあそう思われても仕方ない世界だろう。たしかに何かの拍子に我に返ることはある。だが、音楽に乗って踊っている時の楽しさといったらない。特に相手はプロだから、ストレスなく踊れるし、特に若いイケメンを先生とすれば、鏡を見ない限りはお姫様気分を味わえる。シンデレラでいる時間は3分かもしれないが、楽しい時間はレッスンの時から継続している。

 最高に幸せな気分で天国に逝く。実は本当にそんなふうに旅立ってしまった人もいる。発表会当日、最高の衣装とメイク、燕尾服のステキな先生と踊った直後、心筋梗塞を起こしてそのまま……というマダムがいた。大好きな先生の腕の中で人生の最期を迎えるのだ。それは幸せだったに違いない。もっとも目の前で生徒に死なれた先生の方はトラウマになったかもしれないが。

 シンデレラでいるのが3分なんてもったいない。そんなにお金のかかるプロと踊るんじゃなくて、アマチュア同士でダンスをすればいいじゃないか、夫婦や恋人、仲間同士で踊りたいという人たちもいる。
 次回は、アマチュア同士の競技という世界をご紹介したい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み