第4話   ダンスそれぞれの生息域

文字数 1,517文字

 社交ダンスのおもしろいところは、楽しみ方が年齢、好み、予算によって多様だということだ。ある程度踊れるようになった時、ダンス愛好家は生息域を変えることがある。出世魚のようなものだと思っていただければいいかもしれない。
 大まかに分けると以下のようになる。

 ①仲間内やプロダンサーとの「社交」のダンスを楽しむ人々 
  生息域:ダンスホール・ダンスパブ・公民館など
 ②デモンストレーションを楽しむ人々 通称デモラー
  生息域:ダンス教室 シティホテル
 ③競技を楽しむ人々
  生息域:ダンス教室 競技会場
 ④大学競技ダンス部 通称学連
  生息域:大学関連施設たまにダンス教室

 まず①だが、文字通り社交のダンスを楽しむ人たちである。特に難しいステップを踊れるようになりたいといった上昇志向はすでに収まり、誰とでもある程度踊れる。ダンスそのものを楽しむ。
 生息域は費用の面からいってもピンからキリまである。現在、ダンスホールはどんどん減って、最近ではホストクラブが踊れるホストを置いていたりするからだ。
映画「Shall weダンス?」のロケ地にも使われた新世紀というダンスホールをご存じだろうか。本当に映画の世界そのものだ。限りなく昭和の香りがする。
ダンスホールやダンスパブには、プロが常駐していて相手をしてくれる。アマチュア同士では飽き足らない女性には人気だ。

 私が初めてダンスホールに連れていかれた時、生バンドで踊るキラキラドレスのマダムたちを見て異世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。彼女たちは踊るだけでなく、若くはないプロダンサーと密着して座り、グラス片手におしゃべりを楽しんでいた。夜のダンス、大人のダンスの世界だと思ったものだ。

 同じダンスを楽しむのでも、公民館などでワンコインで仲間内でダンスを楽しむ人たちもいる。たまに講師を招いてレッスンなども受ける。恐らく世間一般が持つ「社交ダンス」のイメージは、そういうところで交流するシニア層のダンス愛好家ではないだろうか。

 ちなみにダンス愛好家は女性の方が圧倒的に多い。男性が女性をうまくリードできるようになるには女性習得期間の3倍かかると言われるほどに難しい。「踊れる」男性がルックスに関係なくモテモテなのはそういうわけだ。

 前述したちょい悪おやじは、なかなかダンディでありかつダンスがうまかったため、あちこちに出没しては巧みに女性を踊らせ、モテモテだった。奥さんはダンスをしない人だったらしく、ダンスのパートナーがそのまま不倫相手でもあるとかで、家庭内は不穏だったらしい。
 妻に内緒でダンスを習っているため、ダンスシューズやダンスウエアは教室のロッカーに預けているという男性もたまにいる。妻が夫がダンスをすることに嫉妬し過ぎてうつになってしまったので、もうダンスはやめますという人もいた。逆に妻がダンス講師と踊ることにすら目くじら立てる夫もいて、華道の稽古だと嘘をついてレッスンに通っている女性などもいる。

 このようにペアダンスであるがゆえに生じる面倒くささも珍しくはない世界だ。夫婦でダンスをすれば、さぞ家庭円満になろうかと思われるが、そもそも夫も妻もダンスに興味があるとは限らないし、夫婦だけで仲良く踊るカップルはそう多くはないのが現実だ。
 しかし、ダンス愛好家の名誉のためにも言っておきたいのだが、そういう男女のアレコレでゴタゴタするのはごくごく一部の人たちだ。私自身もかれこれ十数年ダンスを趣味としているが、幸か不幸かただの一度もそういうメンドウに巻き込まれたことはない。(単にモテないだけかもしれない)

 次回は、②のちょっと濃厚なマダムの世界をご紹介したい。
 
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