小太郎の本心

文字数 2,592文字

大会三日目。
準決勝へと勝ち進んだ透子たち小倉中学校職種決闘部は今回もスムーズに勝つかと思われた。
やべっ!?
桐谷!!
そっち行ったぞ!!
っ……!!
小太郎は呆然としていたのか、拳一郎の言葉に咄嗟に反応して対戦相手の足元に銃弾を放つも避けられそのまま距離を詰められるとその相手から攻撃を諸に喰らい、変身が解けてドロップする。
桐谷……!?
影山!!
避けろ!!
隆太がよそ見をしてしまったのが災いしたのか、対戦相手が迫って来て攻撃を受ける。
それにより変身が解け、隆太もドロップしてしまった。
影山……!!
優斗は対戦相手の人数を見る。
残り三人……。
自陣も残り三人。
相手は残り三人だ!!
それぞれで相手をすれば勝てるぞ!!
おう!!
行くぜ!!
オラァッ!!
優斗の言葉に、透子と拳一郎の二人は呼応し、それぞれ残りの相手を倒して何とか勝利を収めた。
桐谷ぁっ!!!!
試合が終わり、拳一郎はすぐさま小太郎に近付き彼の胸座を掴んで睨みつける。
鷹野!!
落ち着け!!
これが落ち着いていられるか!!
拳一郎は小太郎の胸座を掴んでいる手を震わせながら言葉を続けた。
何で……、何であの時手を抜きやがった!?
あの時だけじゃねぇ……。
一回戦の時から……、テメェは何一つ本気を出しちゃいねぇっ!!!!
刹那、小太郎は雷に打たれたかの様な感覚を覚える。
図星だからだ。
まさかこんな形で言い当てられるとは思いもしなかったのだろう。
気が重くなった小太郎は、そのまま拳一郎から視線を逸らして黙り込んだ。
桐谷、教えてくれ。
どうして本気を出してくれないんだ?
そ、それは……。
ご、ごめんなさい!!
桐谷はそう言って拳一郎が掴んでいる手を振り解いてその場から走って去って行った。
あっ!!
おいっ!!
待て、鷹野。
俺が行く。
皆は決勝に備えてくれ。
何とか出来そうか?
ああ。
そうか。
なら頼んだ。
「任せろ」と優斗は言って、桐谷の跡を追った。
×××
仲間たちの前から走り去ってしまった桐谷は疲れたのか、会場の出入り口にあるベンチに腰を掛けて息を整える。
(僕、何をやっているのだろう……? 部長に誘われて、それに乗ったのは僕なのに……)
本当、僕って奴は勝ってだよね……。
全くだな。
っ!?
せ、先輩……。
どうしてここが解ったのですか……?
ここから学校まで歩いて帰るには遠いからな。
それに、お前が無断で帰る奴だとは思わない。
逃げたとしても出入り口のベンチで座っているかトイレに籠っているかのどちらかだと予想できるしな。
そう……、ですか……。
ハハッ……。
隣、良いか?
どうぞ。
なぁ、桐谷。
職種決闘、嫌いか?
その問いに、小太郎は勢いよく首を横に振って否定した。
『本気を出せない』理由を聞いても良いか?
優斗の言葉に、小太郎は大きく目を見開いた。
やはり皆さん解っていたのですね……。
桐谷の手の抜き方はどこかぎこちなかったからな。
そこまで見抜かれたら仕方ありませんね……。
包み隠さず話します。
あれは、僕が小等部六年で職種決闘全国大会で優勝した時の事です……。
×××
僕は見た通り小柄で力も無く、いつも周りから虐められていました。
でも、そんな時、TVに映っていた職種決闘の試合が僕の限界を超えさせてくれました。
職種決闘では力が同じになるように設定され、文字通り実力だけの勝負が行える体感型ゲーム。
確信したのです。
『このゲームなら僕の力示す事が出来る』と……。
親に頼み込んですぐに職種札を購入しました。
色々な技術を身に付け、僕は全国大会で優勝したのです。
最初は職種決闘やっている人たちに尊敬の眼差しで観られていたました。
沢山、一緒に遊びました。
ですが……、
お前との職種決闘面白くないんだよ!!
いつしか尊敬から嫉妬に変わり、次第に僕から離れて行ったのです。
ただ僕は皆と楽しくしたかっただけなのに……。
×××
それが原因で僕は本気が出せないのだと思います……。
甘えだと思いますけどね……、と小太郎は自嘲気味に笑った。
桐谷。
言っては悪いが、職種決闘は実力の世界だ。
お前は何も悪くは無いよ。
寧ろ、と優斗は言葉を続ける。
その程度でお前から離れるなんて器が小さすぎる。
本当に強くなりたいのであれば、お前から学ぶ事なんていくらでも出来た筈だ。
後藤先輩……。
桐谷小太郎。
お前はどうしたいのだ?
このまま『自分の気持ち』を蔑ろにしたまま人生を過ごすのか?
気が付けば、小太郎の瞳からは雫が溢れていた。
やりたいです……。
職種決闘、皆とやりたいです!!
皆と全国取りたいです!!
ならば俺たちと共に来い!!
恐れるな!!
俺たちはお前を置いて行ったりはしない!!!!
はいっ!!!!
×××
お、戻ってきたな!!
心配したぞ。
すいませんでした!!
桐谷ぁっ!!!!
はいっ!!!!
さっきより良い眼をしてるじゃねぇか……!!
決勝戦、勝つにはお前の力が必要だ。
手を抜くんじゃねぇぞ!!
はい!!
もう半端な真似はしません!!
だから見ていて下さい!!
僕の本当の闘いぶりを!!
その言葉を聴いて安心したのか、透子たちはステージへと上がり、対戦相手のチームと対面する。
さあ、皆さんお待たせしました!!

これより中総体予選決勝戦、東山中学校対小倉中学校の試合を始めるぞ!!

両チーム、構えて。
審判が右腕を上げると同時にその場にいる選手たちは職種札を取り出し戦闘に入る構えを取る。
(僕はもう……、自分自身に嘘を吐かない!!!!)
始め!!!!
『グローリー・オア・フラストレーション』!!
皆!!

行くぞ!!

おうっ!!
おうっ!!
おうっ!!
おうっ!!
オラァッ!!
拳一郎は得意の先制攻撃で対戦相手のチームの一人を倒す。
拳一郎!!

後ろだ!!

なっ!?
背後に回り込まれた敵の攻撃を喰らいそうになったその時、銃声が鳴り響くと同時に相手は吹っ飛びドロップした。

銃声が聞こえた方向へと視線を向けると、そこにはショットガンを構えた小太郎の姿があった。

皆さん、援護は僕に任せて思う存分暴れて下さい!!
助かるぜ小太郎ぅっ!!!!
それから透子たちは小太郎の援護射撃のお蔭でスムーズに試合を運ぶ事が出来たのだった。
これで最後だ!!
そこまで!!

勝者!! 小倉中学校!!

決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!

中総体予選を制したのは小倉中学校だ!!!!

歓声が沸き上がる。

透子たちは全員思わず勝利の咆哮を上げるのであった。

(良かった……!! 自分に正直になって……!! ありがとうございます皆さん!!)
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登場人物紹介

後藤優斗(旧名:前田優斗)

小倉中学校三年。
使用職種札:剣士
小等部六年の頃、父が他界したことで職種決闘のプレイを控える事に。

宮野透子

小倉中学校三年。
使用職種札:闘士
小倉中学校職種決闘部部長を務めている。
明るく陽気で男勝りな性格の持ち主。
『神の世代』の中で最強を誇る。

鷹野拳一郎

小倉中学校三年。
使用職種札:闘士
小倉中学校職種決闘部副部長を務めている。
気性が荒い。
透子の事を『宮ちゃん』と慕っている。

影山隆太

小倉中学校三年。
使用職種札:暗殺者
透子の幼馴染。
穏やかな性格をしている。

桐谷小太郎

小倉中学校一年。
使用職種札:銃士
内気な性格をしており、常に自分の気持ちを抑えている。

神条白銀

聖薔薇学園三年。
使用職種札:剣士
『神の世代』の一人。
聖薔薇学園職種決闘部部長を務めている。

眞壁紅

聖薔薇学園三年
使用職種札:闘士
『神の世代』の一人。
部長の白銀を酷く崇拝している。

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