第6話

文字数 1,011文字

男の話を要約すると、こういうことだった。

そのジャングルでは大昔、猿を感染源としたあるウィルス性の病気が蔓延したことが実際にあった。そのウィルスは感染しても一見無害に見える。感染後しばらくは、身体になんの症状もあらわれない。しかし、ある日突然、発病する。発病したら最後、数時間後には死亡する。



これを聞いて、刑事は反論した。

「なるほど、謎の伝染病は実在したというんだな。しかし、それでは赤鬼の説明にはなっていないではないか」

「ええ、そうですね。ところで、そのウィルスに感染したものが発病すると、どのように死にいたるのだと思いますか」

「はて、全く見当もつかんな。どんな症状が出るんだ」

「血が逃げ出すんですよ。このウィルスに感染し発病すると、全身の血が体から逃げ出そうとするのです。数時間ですべての血が体から逃げ出し、死にいたる。おそらく、発病した瞬間、肌はみるみる血の赤い色に染まるでしょう。発病して血が逃げ出しはじめた人間。それが、赤鬼の正体です」



「血が逃げ出す……。そんなこと、あるはずがない。それに、あったとして、なぜ赤鬼は村を全焼しなければならないのだ」

「それはこのウィルスの感染の仕方が関わっています。このウィルスは、発病前は他人に感染しません。しかし、いったん発病すると、ウィルスに感染した血液は粉のような状態になって、肌の穴という穴から一気に空気中に飛散します。まるで、満開に咲いた花が花粉を飛ばすかのように。発病後、感染の広がりをとめる方法はひとつ。粉となった血が付着した全てのものを焼きはらう以外にはありません。近くにいた生物もふくめてです。おそらく、科学的な知識はもっていなくても、そのようなことをいい伝えかなにかで知ってるものが、村にはいたのでしょう。それで、赤鬼が出た以上、感染をふせぐために自分たちもろとも村を全焼させるしかなかった」



「うーむ……なんて恐ろしい病気だ」

「刑事さん、あなたのように私の話に耳をかたむけてくれる人が、もっと世の中にいてくれたなら、こんな結果にはならなかったでしょう」

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