第1話

文字数 530文字

「この男が、それほどあくどい犯罪者なのだろうか……」

殺風景な取調室で、ベテラン刑事はどうにも合点がいかないという風に首をかしげた。



彼には自信があった。長年の経験から、容疑者を見れば、そいつが悪いやつがどうか、すぐに勘がはたらくはずなのだ。

しかし今、目の前で取り調べをうけている四十手前くらいの色白の男は、ひどくやつれてはいるが、それほど悪いやつには見えなかった。むしろ知的で、なにか重要な使命にかられているような、そんな雰囲気だ。 身なりもきちんとしている。

「おれの勘もとうとう、にぶってきたか。まあいい、ともかく話を聞いてみないことには、はじまらない」

そうつぶやいて、刑事は事件の内容をまとめた資料に目をやった。

どうやら容疑者の男は、薬をつくっていたようだ。そして書類には、あやしげな色の錠剤が数粒、小さな袋に入って添付されていた。



「なるほど、この錠剤がれいの……」

刑事はその錠剤をながめながら、少し前に世間を騒がせたある事件のことを思い出した――。
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