第4話

文字数 1,123文字

捜索隊がはしごをおりはじめてから、ずいぶんとたった。しかし、まだ底はみえない。なんて長いはしごだろう。もう地下五階分くらいはおりたのではなかろうか。足を踏みはずしたらと思うとぞっとする。もしかすると、こうしている間に床の穴がふさがれて、出れなくなってしまうかもしれない。

そんなふうに、穴の深さを不気味に感じはじめたその矢先、捜索隊はキューブ型のまっ白い小部屋にたどりついた。どうやら、ここが穴の底らしい。その部屋には何もなかったが、殺菌作用でもありそうな青白いライトがひとつ、向かいの壁をてらしていた。そこには、ぶあつい金属製のドアがあった。



ドアは、まるで何か重要なものを隔離しているかのように厳重にロックされていた。特殊な工具などを使い、なんとかドアをこじ開ける。すると、またぶあついドアが。どうやらマトリョーシカのように、何重にも設置されているようだ。同じ作業をいくどもくりかえし、ついに、最後のドアが開いた。

そこに、男はいた。試験管やらなにやらがちらばった中で、テカテカする素材でできた宇宙服のようなものをきたその男は、大きな装置の前のコンピュータにかじりついていた。捜索隊がちかづくと、宇宙服はふりかえった。ヘルメットの向こうにうっすらと見える顔は、白くやつれ、何かをあきらめたような表情だった。彼はとくに騒ぎたてることなく、あっさりと捕まった。



こうして男は、この取調室へつれてこられた。

「はい、あの錠剤は体には無害ですが、飲んだところで、なんの効果もないでしょう」

男は素直に認めた。

「ええ。あの錠剤で感染がふせげるといううわさをながしたのは、この私です。もちろん、うそをつくのに罪悪感はありました。でも、どうしてもすぐに、多くの資金が必要だったのです。それに、人びとを安心させたいという気持ちもありました」

そこまで語ると、男はため息をついた。

「では、新たな病気そのものも、お前がながしたうそなのだな」



刑事は手のひらでバンッと机を叩き、男にむかってどなった。

「そうであればよかったのですが……」

男は悲しそうにうつむいたものの、急に、ストンと無表情になった。そして、刑事の目をぎょろっとみつめ、つづけてこうたずねた。

「刑事さん。ジャングルの奥地に伝わる赤鬼のうわさをご存知ですか」

そして男は、こんな話を語りはじめた──。
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