第3話

文字数 1,096文字

それからしばらくの間、人びとは不安にすごした。しかし、一方で、ある疑問もいだきはじめていた。そもそも、そのうわさの新しい病気は、本当に存在しているのだろうか。ひょっとして、あのにせ薬はおろか、新種の病気自体がうそだったのではないか。悪党が金もうけのために、伝染病のうわさを流し、なんのへんてつもない錠剤を売っていたのだとしたら、ひどい詐欺だ。人びとをだますとは、けしからん。とっつかまえて、処罰しよう。そうすれば、一件落着。我々はこれまで同様、安泰だ。



新聞やテレビはこぞって「金の亡者のしわざだ!重大な詐欺事件だ!犯人をさがせ!」と報道した。こうして人々は、犯人さがしという目的をえた。

そして不安のたねだった未知の病気は、存在しなかったということになり、世間にはいつものほっとした空気がもどった。

この一連の騒ぎをうけ、警察は犯人逮捕にのりだした。

捜索隊は、錠剤の瓶に記載されている住所へとむかった。現場にたどりつくと、そこはひとけのないうっそうとした森だった。そして、木々の中にかくれるように無機質な建物がひとつ、ぽつんとたっていた。大きくはないが、どこか病院のような、研究所のようなたたずまい。人工物だとはっきりわかる直線的なデザインは、自然が広がる山奥には少々違和感があった。入り口らしきものは見あたらない。



「ごめんください。警察ですが、誰かいませんか」

大きな声で呼んでみたが、返事はない。建物の中には誰もいないのだろうか。 あたりは、しんとしている。

捜索隊は、無造作においしげる植物をかき分け、分厚いコンクリートでかこわれた建物のまわりを壁づたいにすすんでいった。二回ほど角を曲がると銀色のドアがあった。鍵はかかっていなかった。慎重に施設内に足をふみいれる。

中に入るとそこには、まっ白な空間が広がっていた。誰もいない。人はおろか菌ひとつみつからなさそうである。犯人はもう逃げたのだろうか……。

「謎の穴を発見しました」



捜索隊のひとりがさけんだ。おくまったあたりの床に、ぽっかり丸い穴があいていた。

穴をのぞいてみると、はしごがあった。そのはしごは深い暗闇へとつづいている。捜索隊はおそるおそる、そのはしごをおりて行った。とくに危険はないようだが、はしごはどこまでもつづいている。

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