第2話

文字数 790文字

少し前のこと。その町に、ある〝うわさ〟がひろまった。今までにない新たな伝染病がみつかったのだという。その病気の致死率はたいへん高く、感染者はほぼ確実に死にいたるらしい。しかし新種の病気だけに、予防法も治療法もまだまったくみつかっていない。



そのうわさを聞いた人びとは、恐怖におびえた。そんなとき、ちょうどいいタイミングで市場に出回りだしたのが、このあやしい錠剤だった。錠剤は高額ながら爆発的に売れた。なぜならそれを飲めば、その病気を予防できるという〝うわさ〟も広まっていたからだ。

一方で、そのうわさの錠剤をあやしむものも現れた。はたしてこの錠剤で、本当に未知の病をふせげるものなのか。そこで成分調査がおこなわれた。いくどか行われた調査の結果、錠剤にはまったく効果がないことがわかった。



その錠剤は、ビタミンを補給するだけのものだったようだ。幸いこれといって、体に害をおよぼす成分は含まれていなかった。毎日飲んでも問題はなく、むしろビタミンを補給できるのだから、ちょっとした風邪の予防くらいにはなるかもしれない。中には、予防になるという思い込みがプラシーボ効果となって、それまでより健康になった人くらいは、いたかもしれない。とはいえ、恐怖の伝染病にはなんの効果もない。



消費者たちは、かんかんに怒った。たんなるビタミン剤に高いお金をはらわされていたのだから、無理もない。それと同時に、人びとはがっかりもした。結局のところ、新たな病に対抗する手段は存在しなかったのだ。こうして世間は、ゆううつな空気に包まれた。
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