最終話

文字数 1,110文字

赤鬼病の真相を知った研究者は、大いそぎでジャングルからもどった。まずは彼を雇っていた製薬会社に、ウィルスが世界に広まったら大変であること、そしてその病気がこの社会にひろまってしまう前にそのウィルスに対抗する新薬を開発しなければならないことを熱心に説明した。 しかし、今後ひろまるかどうかもわからない謎の病気の新薬研究に、企業がぽいと大金を投じてくれるはずもなかった。それでも研究者はあきらめず、あらゆる会社にでむき、この病の話をしてまわった。けれども、その努力もむなしく、結果は同じ。みな、ろくに話も聞かず、彼をあしらった。ただ、どこから話がもれたのか、ちまたでは謎の感染病がみつかったらしいといううわさだけは、ひとりでにひろまった。



絶望的な状況で、彼は決心した。こうなったら、自分一人で資金をあつめ、開発するしかない。そうして感染病のうわさを利用し、錠剤の販売をはじめたのだ。もうけたお金はすべて、新薬の研究につぎ込んだ。

「もう少しで、新薬が完成するところでした。しかし、あと少しのところで私はつかまり、研究はストップしてしまった」

男はそこまで語ると、くやしそうに目に涙をうかべた。



刑事は、容疑者とはいえ、この真剣な男を少しかわいそうだと思った。 熱い使命感がからまわりしている様子は、自分の若い頃にも似ているように思えた。

「確かにその薬を完成させたら、将来、多くの人びとを救うことになったかもしれない。しかし、まだそのウィルスがここいら辺で広まっているわけでもないし、今後、実際にひろまるかどうかもわからないじゃないか。それでは、とりあってもらえないのも仕方がない。それが世の中というものだ。赤鬼なんてここにはいない。そう焦るな」

刑事は、男の肩に手をのせ、やさしくさとした。



「お前の気持ちはわかる。しかし、お前のやったことはまちがいなく犯罪だ。まずは、ちゃんとその罪をつぐなってから、また改めて、その赤鬼病とやらの研究に没頭すればいい」

厳しくもあたたかい声色で、刑事は言った。しかしその言葉は、うなだれた男の耳にはまるで入っていないようだった。

「いや、もう間に合わないのです」

男は、うつろな目でつぶやいた。 すると間もなく、それまで白く透き通っていた男の肌は、まるで、赤鬼のようにみるみると赤く染まり……。


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