6-7.隠れるということ(3)

文字数 1,404文字

 前回は、隠れるための方法論について考察を巡らせました。
 今回は、隠れる上で欠かせなくなる〝自分からは何も発しない〟ことについて考察してみましょう。

 ◇

 隠れることを考えた時、ヒトは意外に多くの痕跡を残しているものです。

 例えば暗いからと言って、足元を照らすのは下の下策。これについては前回お話ししましたね。

 まず問題になるのが無線通信。
 暗号化がどうとか言う問題ではありません。〝意味のある(=不自然な)信号を全周へ向けて発信する〟のが問題なのです。
 相手にしてみれば、〝信号の発信源を辿る〟だけで自分のいる方位が観測できてしまうのですから始末に終えません。
 しかも到達距離がまた問題で、相手にしてみれば信号の内容など解析できなくていいのです。減衰してノイズが乗りまくろうとも、相手が欲しいのは〝意味のある信号の方位〟なわけですから。
 となると、〝信号〟の到達距離は軽く数倍には跳ね上がります。これでは隠れたうちに入りませんね。

 では他には。
 例えば、この作品世界では当たり前の〝ソフト・ワイアド(Soft Wired)〟、この状況では型なしです。
 〝ソフト・ワイアド〟は、生身のままで実現するサイバーパンク技術の総称(造語)です。これの詳細については『1-2.【解説】電脳化技術〝ソフト・ワイアド〟』をご覧いただくとして。

 まずインターフェイス間の無線通信が問題です。
 無線通信も足元を照らすのと同様、信号を運べる距離よりも〝信号波の発信源〟として認識できてしま距離が圧倒的に大きいわけです。
 視覚へ情報を映し出すコンタクト・レンズ型網膜投影装置も、骨振動スピーカやマイクも、無線通信では使えなくなるというわけです。有線通信ならばまだ何とかなりますが。

 次にネットへの接続も、痕跡を残さないよう気を遣う必要があります。
 通常は最寄りの通信局と無線通信を交わしますが、もちろんこれは痕跡だらけ。
 都市部で隠れるなら周囲のアクセスに紛れることもできますが、そうでなければ目立つだけです。
 実質として選択肢はこれまた有線これ一択。

 と、ここまで振り返って見るに。
 目標以外に信号を洩らさないレーザ通信、これがいかに〝隠れる〟のに向いているかがお解りいただけますでしょうか。レーザ通信につきましては『6-4.レーザ通信について』をご参照ください。
 もちろん、レーザ通信はお互いの現在位置が厳密に判っていないと成立しませんし、間に障害物があっても成立しませんが。
 なので、地上からでも位置を見通せる宇宙空間の通信拠点――具体的には静止衛星軌道にある通信衛星や軌道エレヴェータ(の重心にある宇宙港)などを介した通信が有用になるわけですね。
 もちろん、これら大規模通信網を味方につけられるのは軍や警察といった〝体制側の集団〟ということになります。

 と、〝隠れる〟ことについては底なしに考察することが可能です。

 ◇

 〝隠れる〟ことに関しては、他にも考察を巡らせることができますが。
 ひとまずはここまでで区切りを打ちましょう。

 いかにして〝隠れる〟か――これを念頭に置きつつ本編をお楽しみいただくのも、また一興であろうかと存じます。

 本作品に関わってくださった全ての方へ、感謝を込めて。

 それでは引き続き、よろしくお願いいたします。
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