第7話 大地の音 心臓の音

文字数 516文字

「また来たか!」
 言葉と同時に、私の体をかばうように大きな身がかぶさってきた。
 地面の下から音が響く。
「わあー!」
 私は思わず叫んだ。
 足元が上下左右に揺れる。
 十数秒の間、たけるくんの天蓋に守られていた。

 しだいに、揺れがおさまってくる。
「……止んだな」
 震度4、いや5、てところか。
 しがみついていた胸板の上で、そうつぶやく低い声。
 地震慣れしているのか、落ち着いている。
「怖かったろ?」
 私はただ、うなずくしか出来なかった。
 震度7なんて、想像するだけでめまいがする。
「たけるくんは、怖くないの?」
「怖いよ。でも、目の前のものを守らないと、ただそれだけ」
 私は思わず、彼の心臓のあたりに頭をくっつけた。
 速い動悸が聞こえる。
 ……そうやって、こんな地震を何度も、乗り越えてきたんだね。


 たけるくんはそのままの格好で言った。
「こんなとき不謹慎かもだけど」

 つきあってるってウワサ、俺はうれしかったんだ。

 私は顔をあげて目を見開いた、ふりをした。
 
(私も)

 なぜ、言えなかったのだろう。

 15年の時を過ごしたその口元は、黙って微笑んでいた。
 私の気持ちを、自分の現在を、よくわかっているかのように。
 そして、ふっと私の身を離した。




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